美琴が伝えた場所は暗い路地裏だ。
楓が今日会った『妹』は果たして今も生きているのか、検体番号は記憶によると一○○三二号、しかし楓には今何人の『妹達』が死亡しているのか知る術などなかった。

路地裏と一口に言っても結構な広さがあり、先程からスキルアウトの目もかなり見える。
いつもなら楓はスキルアウトから攻撃を受ければ必ず応対するし、むしろそれが目的であることも少なくはない。
しかし今はそんなことに目を向ける暇もなかった。

「や、め…許してくれえ…ッ!!」
「…あァ?オマエから仕掛けてきたくせに、随分と調子いいんだなァ」
「ひィ…ッ!!」

声がした方を見てみると、そこに佇んでいたのは白い悪魔。
色素の抜けた白髪に、アルビノのような白い肌、そして悪魔のような赤い瞳。
噂に聞く第一位、『一方通行』。
思っていたよりも彼は人間らしく、しかし残酷に笑っていた。

「…あんたが、一方通行?」
「あァン?誰だオマエ、今日はよくろくでもねェヤツに会うなァ」
「わたしは檸絽楓、簡単に言うとあんたより七番目に弱い能力者、わかる?」
「よォはただの大能力者だろォが、…ンで?俺を倒してめでたく第一位か?笑える話だなァ」
「まさか、あんたなんかと戦ったってわたしが死ぬに決まってるじゃないの」

会話が成り立っているのが奇跡だと思えた。
楓はいつも通りの話し方で、いつ会話が打ち切られることも考慮していたが、第一位も人間であることには変わりない。
もしかしたらもしかするかもしれない、と僅かな希望が生まれた。

「少しは自分の実力ってのがわかってるみてェだな、そこらの馬鹿とは大違いだ」
「スキルアウトと一緒にされるなんて心外ね、それで一方通行。話があってきたんだけどね」
「…聞くぐらいはしてやンよ」
「『実験』、止めてほしいのよ」
「…知ってる側のヤツか」
「断片的にだけど、…ていうかわたしは聞きたいけど。あんたはもう学園都市で最強の超能力者、これ以上何を望むのよ」

楓からしてみれば、それは贅沢すぎる願いだった。
彼女はどんなに努力しても毎回の身体検査での結果は『大能力』、思い悩み超能力者に手に掛けようとして暗部に落ちた彼女にとって、既に最強である彼が何を望むかなど知る由もない。

「八位?止まりのオマエにはわかンねェかもしれねェけどよォ。…『最強』ってのは『無敵』じゃねェンだ」
「…どういうこと?」
「『学園都市最強』なンていう立派な肩書きが欲しい馬鹿共が、毎日毎日俺ンとこ来て倒そうとしてンだ、…そー言うの面倒くせェンだよなァ」

彼が優しい人間なのか、それともただの気まぐれなのかはわからないが、饒舌になって話してくれた。
こんな会話ができることすら奇跡に近いのだが、やはり彼の周りには彼に敵意を向けない人間がいないのが原因だろう。
初対面である楓にすらこれほど話してくれるのだ。

「あくまでも『無敵』になるために実験は続ける、と」
「…最初からそう言ってンだろォが」
「一つだけ思うんだけど、『無敵』になったって誰が判断するの?」
「…はァ?」
「確かにあんたの能力は文字通りの無敵になるかもしれない、でもわたし達にとってもうあんたは『最強』で『無敵』だから、何も変わらないと思うよ」
「………」
「そんなに孤高が寂しいならわたしが友達になってもいいけどね?なーんて」
「…馬ッ鹿じゃねェの」

楓は少し地面を蹴り、風を纏って夕闇の空に消えていく。
一人になった一方通行は彼女が一体何だったのかもよくわからないままだ。
そういえば誰かとまともな会話をするのは久しぶりかもしれない。

Only a Little Difference
(『最強』と『無敵』)

----
03/23
一通さん物わかり良すぎだろ…(※夢小説補正)


Prev Next
Back





- ナノ -