「おはようございます、みなさん」

再び甲板に集まった全船員たちを前に、サフィールはふらふらとした様子で立ちながら言う。
船長のナイトミストはと言うと、遅くまで何かをしてくれていた様なので、彼女が代わりに挨拶を務めることになったらしい。
最もそんな堅苦しいものではなく、単純に自己紹介レベルのものなのだが。
お昼ということもあり、通常なら賑わってくる時間帯なのだが、ここグランブルーでその常識は通用しない。
船内の方から、吸血鬼たちの呻き声が聞こえる。

「おいそこのオマエ!吸血鬼全員干からびされるつもりか!」
「あ、日光ダメなんでしたっけ…忘れてた」

ごめんなさい、と軽く謝りゴーストシップに指令を出す。
みるみるうちにゴーストシップ−−グランブルーの幽霊船は日光を遠ざけ、完全に空を覆ってしまった。
新船員からはおお、と感嘆の声が思わず漏れる。

「えっと、みなさんグランブルーに船上してくださってありがとうございます、わたしは銃手のサフィールです!」
「俺はジン、このゴーストシップを動かしてる」
「ルインだ、強い奴は俺が相手になってやる」
「バンシー、です…あの、悲鳴あげさせないでください」

旧メンバーたちは次々と挨拶を終え、新しいクルーの挨拶を待つ。
すると赤髪の小さな海賊が、元気良く叫んだ。

「俺はキッド!ミストの親戚だ、よろしくな!」
「私はルージュ、よく今まで医者がいなくてなんとかなったわね」

えへへ、と誤魔化しながら、他の船員の挨拶を促す。
段々と賑わってきて、緊張も解れてきたのか、後ろにいた長髪の男二人が、前へと進んできた。

「私はシルバー、航海士だ。…君からは人間の香りがするのだが」
「えっ、わたしですか…う、ええ…」
「おいシルバー、その子が困ってるじゃないか」
「私は別に何も、ただ質問しただけだが?」

俗に言うイケメンに分類されるであろう彼らは、恐らく吸血鬼。
あの風使いが言っていた女好きの吸血鬼とは十中八九彼のことだろう。
どうしたものか、とにかく人間ということをバラせば自分の血が足りなくなることは重々承知だ。

「人間じゃないですよーやだなあ、ふふ…」
「君、その演技はバレバレだからやめた方がいいと思うよ。…俺はナイトストーム、よろしくね」
「え、あ、はい…ってえっわたしそんな演技下手ですかね…」

しょぼんと落ち込みながら徐々に後退りすると、大丈夫、君の血は吸わないよ、と優しく諭される。
その様子をシルバーはやれやれと言った様子で海を見上げた。

「えっと、それじゃあお昼ご飯なんですけど、…新しく入ったピエトロさんが作ってくれるらしいです」

挨拶を終えた一同が向かった先はゴーストシップ船内の食堂と呼ばれる場所。
そこではスケルトン界の三ツ星シェフ、ピエトロが鼻歌を歌いながら料理を作っていた。
その食卓には、何と形容したらいいのかわからない、毒々しい色や発酵した何かが並んでいる。

「あ、あのっ、あの人大丈夫なんですか…!」
「……あれは、食べ物じゃあないな」
「よしオマエら!ここから逃げるぞ!」

キッドの掛け声とともに、サフィールたち船員は逃げ出した。






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