俺は夏休みを利用してじーちゃんとばーちゃんに会いに来ていた。昔からよくじーちゃんとばーちゃんの家に泊まりに来ていて、いつも笑顔で迎えてくれる。
「久し振り。じーちゃん、ばーちゃん」
「よく来たのぉ、光坊」
「疲れたでしょう?さ、お上がんなさいな」
「うん」
じーちゃんとばーちゃんの家に上がると俺はすぐに荷物を部屋に置き、御仏壇へ向かった。俺が産まれて数週間後に亡くなったひいじいちゃんに御線香をあげるためだ。目を閉じ、手を合わせる。
「お盆だからねぇ…お父さんが帰って来てると思いますよ」
「そっか…ひいじいちゃん帰って来てんだ…」
顔は写真でしか知らない俺のひいじいちゃん。一度くらい会って見たかったな。
「ん?光坊、どこ行くんだ?」
「あー俺ちょっとランニングしてくるよ。部活のカントクから言われててさ。今年こそは日本一になりたいからね!」
「そうか!そうか!じーちゃんは応援しとるからな!」
「サンキュー!じーちゃん!!」
「気を付けてねぇ」
「行ってきまーす」
俺は靴紐を結び、勢いよく玄関を出た。
カントクに言われてたメニューをこなし、俺は一人暗い夜道を歩いていた。カントクのメニューのお陰で体はボロボロのガタガタ。きっと明日は寝坊しそうだなと思いながら笑った。それにしても、この道はこんなに暗かったかなと思い俺は周りを見渡す。
「ん?誰だ?」
ふと、一つの街灯の下に小さな男の子が踞っている。こんな時間になんでと思い近付いて声をかけた。
「君どうしたの?」
「お家がわからないの…」
迷子になっちゃったのか…
「そっか…お家どっちの方向かわかる?」
「あっち」
その子は暗くて細い一本道を指差していた。その道の先にはあまり民家はなかったはずなんだけど…まぁいいか。こんな小さい子一人にしておけないし。
「じゃあ、お兄さんと一緒に行こっか?」
「うん」
俺が差し出した手を男の子は握り俺達は暗く細い夜道を歩いていった。
どれくらい歩いただろうか、どれだけ歩いても一本道から出られない。ずっと同じ道を歩いている気がする。流石に足が疲れて来た…少し休もうか…
「なぁ、疲れてない?大丈夫?…ってどうした…?」
その男の子は青ざめた顔で体が震えている。目は真っ直ぐ何かを見ていて、とても怯えていた。
「変な人達が、おいでおいでってしてるの…お兄ちゃんこわいよぉ…」
男の子が俺の手をギュッと両手で強く握ったと思った瞬間、さっきまでと見えている風景が変わった。周りには沢山の手があり、男の子が行った通りおいでおいでと手を振っている。
コッチヘオイデ。
コッチハタノシイヨ。
コッチハサミシクナイヨ。
サァ、サァ。オイデ。
「ひぃ!?な、なんなんだよ、こいつら」
「お、お兄ちゃん…」
サァ、オイデヨ。
コッチヘオイデ。
―行くな。
「へ…?」
―行ってはならん、光樹。
突然俺の頭の中に不思議な声が聞こえてきた。聞いた事の無い、でも何処か懐かしい声。
―わしが其処から出してやる。光樹達が居てはならん場所だ。さぁ、此方へ来るのだ、光樹。
「ひい、じいちゃん…?」
俺が声を発した直後、夜なのに光りに包まれた。そして目が覚めた時にはもうあの一本道を抜けていて、いつの間にか隣の地区まで来ていた。遠くを見てみると民家の明かりがあり夜の暗闇の中でキラキラと光っていた。
「あ、おばぁちゃんとおじぃちゃんのお家だ!」
と、言い男の子は走って行ってしまった。なんとなく最後まで見守ってやりたいと言う気持ちが芽生え、男の子の後をゆっくりと歩いて付いていくとある民家にたどり着いた。そこは白い提灯を玄関にかけてあり、人々を見ると皆黒い洋服を着ている。
「どちら様ですか?」
不意に声をかけられ白い提灯がかけてある家の玄関を見てみると、黒い洋服を着た女性が立っていた。
「え、あ、その…小さい男の子が迷子になっちゃってて連れて来たんですけど、今居なくなっちゃって、それで…」
「ど、何処から、連れて来たんですか…?」
「えっと…隣の地区で街灯の下に居たので迷子かなって…」
女性の顔が一気に明るくなった。涙を流しながら誰かを呼んでいる。バタバタと足音が聞こえたと思ったら今度は男性が出てきてその人も涙を流していた。男性は何度も何度も俺にありがとうと言って頭を下げていた。
よく話を聞いてみるとその人達は夫婦で、今日は一人息子が帰ってくる日だった。その男の子は一年前に此処に住む老夫婦に会いに来て近くの川で溺れてしまったそうだ。
俺はその子に御線香をあげて、玄関で靴を履いていると右手を掴まれた。掴まれた方向を見ると男の子が笑顔で立っていて一言こう言った。
『ありがとう。お兄ちゃん』
「どういたしまして」
一言言った後、男の子は煙のようにスゥっと消えていった。
結局、じーちゃんとばーちゃんの家に帰った頃には1時を回っていてこっぴどく怒られた。じーちゃんはまだ怒り足らなそうだったけどばーちゃんがもう遅いからと言って助けてくれた。
そういや、一つの心残りがあったんだ。
「ねぇじーちゃん、ばーちゃん」
「なんだ光坊」
「ひいじいちゃんってどんな人だった?」
「ふふ…それは正義感の溢れる人でしたよ。…
今日の光樹の様な…」
「ばーちゃんなんか言った?」
「なんでもないですよ」
「?」
俺はばーちゃんが何を言ったのかわからないままボロボロの体を引きずって布団に倒れるように眠った。スゥっと現れた老人が俺に布団をかけてくれたのも知らずに。
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こんにちは、麗希です。
怖い話書いてたら怖くない話が出来上がってしまいましたorz
しかし、いつも怖い話じゃなくてたまには怖くないこんな話もいかがでしょうか?
楽しめたら良いなと私は思います。
さて、次はどんなお話が待っているのか…楽しみですね。
ではでは…