ひとりじゃんけん





「なぁ、降旗」


夏休みの補習授業。
赤点を取った訳ではないが、課題で分からない所があった。


「ん?」


その為、部活のない貴重な休みの日を使って補習授業に来た。
本当なら部活で溜まった疲労を癒したいところなんだけど・・・。
まぁ、しょうがない。


「何だよ?」


先生が電話で呼ばれて今は先生が不在。
だから、補習を受けてる生徒はその隙をついて騒ぎ出す。


「お前さ、『ひとりじゃんけん』って知ってるか?」

「?1人で両手を使ってするやつだろ?」


小さい頃やったけど今考えると凄く虚しいよな。

1人で両手を使ってじゃんけん・・・。
自分の手だからどれ出すか分かるし・・・。
勝てるのも負けるのも分かるんだよな。
何で小さい頃、やってたんだろ・・・。


「あー・・・確かにそれもひとりじゃんけんだけど・・・」

「え?何、違うのもあるの?」


俺が聞くと力一杯に手を握られる。


「降旗・・・!」

「え、な、何・・・?」

「やり方教えてやるから、ちょっと試してくれよ」

「!?や、ヤダ!」

「大丈夫大丈夫。ただの都市伝説だしよ」


いや、ならお前がやれよ。
なんて口が裂けても言えないけど。

結局、俺はソイツからやり方を聞いて。
何だか似たような都市伝説を聞いたような・・・。
そんな気持ちになりながらも、やるよ。と約束を交わしてしまった。





俺の目の前にズラリ。と並ぶ道具たち。
まぁ、道具って言っても4つしかないんだけどね。


「・・・男に、二言はない・・・」


用意するものである、4つのもの。

人形。
紙。
マジック。
包丁。


「これって、本当に似てるよな・・・『ひとりかくれんぼ』と」


まぁ、都市伝説ってそんなものだろうな。
深く考えないで準備に取り掛かる。


「最初に・・・」


紙をハサミで切り始める。
じゃんけんで必ず使う“グー・チョキ・パー”の3つの形に切り抜く。


「・・・俺、絵下手なんだけどなぁ」


次に残りの紙を使って自分で考えたお化けを描く。
まぁ、別に幽霊でも良いらしいけど。
取り敢えず、お化けを描いてその紙を細かく切り刻む。
そして、綿を抜いた人形の中に細かく刻んた紙を入れる。
紙を入れた人形の胸に赤色のマジックでハートを書く。
まるで、心臓の様に。
最後に、紙で出来た手を人形の手に貼り付ける。

・・・人形を持ってなかったから、買ってきたんだけど・・・。
新品の人形に対してこう言う事をするのは少し気が引ける。
でも、やると言ったからにはやらないと。


「・・・ふぅ」


準備は出来た。
後は、実行するだけ。

今ならまだ戻れる。
でも、戻ってはいけない。

やると決めたからには最後までやり遂げる。


「・・・お人形さーんじゃんけんしましょ。
俺が勝ったらあなたの胸を切り裂くよ。
あなたが勝ったら俺の胸を切り裂くよ。
じゃんけんぽい!」


人形に貼り付けた手はパー。
俺が出すのはチョキ。


「俺が勝ったね」


包丁を持って、人形の胸を切り裂く。


「・・・っ、」


何だか気味が悪くなってきて。
後片付けを始める。

やっぱり、やらなきゃ良かった。
適当に嘘を言っとけば良かったんじゃないのか。
そんな事を考えるけど、今更遅い。

こんな人形、さっさと処分してしまおう。
ゴミ袋に人形を突っ込んで、キツく袋を結ぶ。
そのままゴミ捨て場に持って行って、乱暴に放り投げて家に戻った。





「おー!降旗、生きてたかー!」

「勝手に殺すなよ・・・」


次の日の補習授業も俺は参加した。
俺がやったと言うと相手は笑いながらお疲れさんと言って。

ああ、もう。
本当に気味が悪かったんだからな。


「あー・・・でも、此処からだよなぁ」

「何が?」

「いや、言ったじゃん。やった後の話」

「え?」


待って。
やった後の話なんて俺は聞いてない。


「あれ、言ってなかったっけ?」


相手は頭を掻きながら申し訳なさそうな表情になる。


「やった後な、―――、」





何だそれ何だそれ。
待って待って俺は聞いてない。
それを聞いてたら俺は絶対にやらなかったのに。


「・・・光樹。御飯くらい食べなさい」

「ご、ごめんなさい・・・食欲、ないんだ」


そう言えば、母さんが溜息をつくのが分かる。
本当に悪いと分かってるけど、食欲がないのは本当。

あの日からずっと家から出てない。
補習授業も、部活も行ってない、行きたくない。


「今日で、一週、間・・・」


アイツが言ってた問題の一週間目の今日。

どうしよう。
幾ら都市伝説だと分かっていても怖いものには変わりない。

怖いものは怖い。
それが普通だ。


「・・・寝よ」


考えてたってどうしようもない。
さっさと寝よう。
これは所詮ただの都市伝説なのだから。

起きたら部活に行って、皆に謝ろう。
たかが都市伝説に怯えて欠席してましたって。





「・・・ん・・・」


音が聞こえる。
階段を上がってくる音だ。
こんな夜中に・・・母さんかな?

ああ、でも。
意識がちゃんと覚醒出来てない。
身体が重くて起き上がれない。

ギィ。と音が鳴る。
誰かが部屋に入ってきたんだな。

頭だけは動かせるから、視線をドアに向ける。


「・・・っ、!?」


夜中だから部屋が暗くて相手の顔が見れない。
けど、見れた。
分かった、入ってきた奴が。


『アナタノムネヲキリサカセテ?』


俺が描いたお化けが愉しそうに笑って言った。





ひとりじゃんけん
(じゃんけんしましょ?)


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お昼寝大好き呀紅夜です(^ω^)
「ひとりじゃんけん」やらないで下さいね。
責任とか取れないんで(^ω^)




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