真っ暗な夢だった。
それはもはや夢とは呼ばないのかもしれないけれど、俺がこれを夢だとおもったらそれは夢だから、多分夢なんだろう。きっと。
それはどこか遠くでひらひらと俺を呼ぶ夢に変わった。
とても遠くて、呼ばれていると気付いたのはつい最近だったりする。
というのも俺を呼ぶそれは徐々に近付いてきているのがようやっと分かったから。
そしてそれが、白くか細く長い女の指だと今、気付いた。
それに手首より先は無かった。
手だけがゆらゆらとひらひらと、指先を滑るように揺らして俺を呼ぶ。
その手を、俺はどこか既視感をもって見ているのだった。ただ呆然と、まるで安心しきっているかのように。
嘘だ、こんな手だけの異物に既視感なんてあってたまるかと思っているはずなのにどうして。
そして察した。
ああ、あいつの手だ。
そんな保証もないのにそう思った。
でなければこの既視感に説明がつかない。そう言い聞かせて。
そっと名前を呼んだ。
瞬間、ぶわりと醜く白くてか細い指は、手は、膨らんで破裂した。
顔に血飛沫が撒き散らされる。
夢の俺は、驚いたけれどそれまでだった。
はやく、助けて、手だけを?
どうやって、夢のなかなのに?
ただ立ち竦む。
撒き散らされた肉片は、哀れ原型も残さなかった。
せめてと手にした瞬間、はらりと赤い花弁となって消えていく。夢なのだから、当然と言えば当然だ。
全て拾って花弁に変えて、せめて。
最後に残っていたのは小指だった。
そして首を傾げる。
さっきから、肉片と散って指の原型すら留めなかった筈の手のうち、小指だけが付け根から綺麗に残っている。
ならこれだけでも、そうちらりと考えて、それに触れた。
花弁にはならず、冷たく軽い感触。
そしてもう一つ、名前を呼んだ。
(×××××、)
小指、小指が、一面に咲いて、花弁とかした肉片は、白い小指に映えて、いやむしろ、小指が花弁に、もう、小指が咲いてるのか、花弁か散ってるのか、分からなくて。
手にしていた本物の小指は枯れていた。
俺はそれを、飲み込んで。
「ねぇ…?私とあなたはきっと赤い意図で繋がってるの。じゃなきゃこんな腐れ縁、とっとと切ってたかもしれないのよ?そう考えたらとてもロマンチックでしょ。なのにあなたときたら、酷すぎるわ…だから小指一本。赤い糸の証明と、誠意の証に…ねぇ、×××××。」
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ホラーってなんぞ。