ツギハギ人形




とある日の帰り道、おは朝占いが最下位だった緑間は、最善の注意を払って家路を急ぐ。ところが途中で迷子の少年に泣き付かれ母親を探すはめになったり、鞄の中に入っていたはずのノートが失くなっていたりと散々だった。おまけに現在進行形で小さな町をうろついている。完全に迷子になった。迷子の世話をしたあとに自分が迷子になるとは。何とも情けないことだ。
ふと顔をあげると古い洋風な店が見える。ショーウィンドウにはドレスを身に纏ったフランス人形や、赤い着物の一抹人形。はては赤ちゃんのお風呂にいれる人形(知育玩具と言うらしい)など沢山の『人形』が置いてあった。
ここにある人形はいつかおは朝のラッキーアイテムになるかもしれない。そう思い、緑間は吸い込まれるように店に足を踏み入れた。
店内は小さな蛍光灯が点けたり消えたりを繰り返していて、薄暗かった。商品棚には大小様々な人形が置いてある。プラスチック製だったり、木製だったり、布製だったりする。中は子供用の着せ替え人形なんかもあった。と、1つの人形が目に留まった。ツギハギだらけのそれは、手作り感で溢れている。ところどころ黒ずんでいたり、糸が解けたりしているので中古品か何かだろう。こういったマニアックなものはラッキーアイテムになることが多い。これを購入しようとレジへ向かったが、ここで店員が居ないことに気付いた。呼び鈴も無い。緑間は鞄からメモ帳を取り出すと、買い取ったことを綴り、商品棚に書かれていた代金とメモをレジの奥に置いて店を出た。
買った人形は子供が遊んだものだろう。黄色い毛糸の髪。ジーンズ生地のサスペンダーのついたスカート。瞳は青と緑のビー玉で、肌は余った布を継ぎ合わせてある。口は黒い糸でできていた。緑間はそれを鞄に入れて歩き出した。先程まで迷っていたのが嘘のように、家路はすぐ見つかった。
翌日のラッキーアイテムは黒い靴下だった。まだ人形の使い時は来ないだろうと思い、押し入れの空白に人形を座らせた。

「おはよ、真ちゃん!」
玄関の扉を開けて外に出ると既に高尾がリヤカーを引いて待っていた。ああ、と声を掛ければそっけねーのと、拗ねられる。じゃんけんをしようと高尾に近づいたとき、彼の眉間に皺が寄った。
「真ちゃん、その鞄から出てるやつ、ラッキーアイテムじゃ、ねーよな…?」
「む?」
何を言っているのだろうと緑間は眉を寄せた。確か今日のラッキーアイテムは自分で履いている筈だ。鞄の中に入れているわけがない。ゆっくりとそれに目を向ける。そこには。昨日買った人形が鞄の隙間から顔を出していた。
「今日の蟹座って、靴下じゃなかったっけ」
「あ、ああ…。確かに今日のラッキーアイテムは黒の靴下なのだよ。だから、今履いているのだが…」
ちゃんの昨晩のうちに人形は押し入れに置いた筈だ。と思う。
「すまない。これを家に置いてくるのだよ」
「おー。早くしろよー」
扉を開けて家の中に入る。いちいち自室へ戻る時間もないため、下駄箱の上に座らせて外へ出た。

朝練後の授業ははっきり言って苦痛だ。疲れが溜まっているときに眠気を誘う教師の声を聴かなければならない。案の定、高尾はわずか10分足らずで夢の中へ旅立っていった。緑間は睡魔と戦いながらノートに鉛筆を走らせた。
1時間目が終わり、次の授業の用意をしているときだった。鞄を漁っていると、なにやら少し大きくて柔らかい物が入っていた。不審に思ってそれを取り出す。
「っ、!?」
それは今朝、自宅の玄関に置いてきた人形だった。それを見た瞬間、緑間の背中につつ、と冷や汗が伝う。何故、これがここにある? 置いてきた…筈だ。いや、間違いなく。置いてきたのだ。一体、どうして?
「真ちゃん?」
声をかけられ、はっと顔を上げる。高尾が心配そうな表情で緑間を見下ろしていた。
「ぁ、」
「それ、さっき…」
「っ、何でもないのだよ!」
緑間は乱暴に鞄の中に人形を押し込むと、右手で頭を抱えた。

家に帰ると、緑間はすぐさま鍵の掛かる棚に人形を仕舞った。これで大丈夫な筈だ。鍵はかけてちゃんと引き出しに入れる。
しかしその考えはすぐに裏切られることになる。
風呂から上がって脱衣所にでると、洗濯機の上に、例の人形が鎮座していた。
「いったい、何なのだよ…っ!?」
どこに仕舞っても出て来てしまう人形。付いて来る人形。
これは危険だと思い、とりあえず無駄とは分かっていても、もう一度棚の中に人形を仕舞って、明日お祓いしてもらおうと思ってベッドに入った。

深夜、家族が寝静まった頃だった。寝苦しさで目を覚ました緑間は、腹の上が重いと気づき、目をそちらへ向ける。
「……は、…?」
一瞬理解できなかったが、数秒して、緑間の眠気は吹っ飛んだ。
そこに乗っていたのは、ツギハギの、人形だったからだ。
そしてそれは、ゆっくりと、ゆっくりと、緑間の頭の方へ近づいて来る。逃げようとしても、どうしてか体が動かない。
「な、んで…っ」
そして。
首元まで登って来たその人形は、短かった毛糸の髪を伸ばし、緑間の肢体を押さえつけて呟く。
「ずーっと、一緒だよ?」



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四周目です。耶生です。
出だしを書いたのが一週間前です。オチを書いたのが数分前です。
文がつながっていなかったらごめんなさい。
眠くて目が冴えてません。

なんだか今朝は寒いです。
これから暑くなるようですが。
皆さんも、朝早く起きすぎて風邪をひかないように気を付けてくださいね。

じゃあ、おやすみなさい……。




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