視線の元は





『視線を感じる時ってありますよね。そんな時は―――』



なんて事を聞いた事がある様な気がする。
あの話の続きは一体何だったっけ?
思い出せるようで思い出せない。


「アツシ?食べないのか?」

「食べるしー」


まぁ、今はそんな事はどうでも良い。
今はただ、ただ。
このアイスを食べる事に集中しよう。


「やっぱり、夏に食べるアイスは美味しいな」

「んー」


室ちんの言葉に生返事を返して冷たいアイスを貪る。
シャリッと音を立てて冷たい個体物が喉を通っていく。
ひんやりとした感覚が気持ちいい。


「…ふふっ、」


美味しくて2個目のアイスに手を伸ばせば室ちんに笑われる。
意味が分からなくて『?』を浮かばせながらも、2個目のアイスの袋を開けてアイスを取り出す。
そうして2個目のアイスも咀嚼し始める。


「いや…アイスを買って来ただけで、こんなに嬉しそうなアツシを見る事が出来て嬉しいなって思って」

「…馬鹿じゃないの」


本当に幸せそうに言う室ちんの言葉をひと蹴り。
でも、そんな言葉さえ室ちんは嬉しそうに笑って俺の頭を撫でる。


「ほんとアツシは可愛いな」

「俺、男だし」

「知ってるよ」


じゃあそんな事言わなくても良いじゃん。
そんな言葉を言うのはアイスを噛み砕く事で抑える。

本当に室ちんはよく分からない。





「…?」


今度は室ちんだけにアイスに買わせに行かせるんじゃなくて、荷物持ちとしてついて行った帰り。
ふと足を止めて後ろを振り返る。
振り返った先には子供が数人追いかけっこしてるだけで、何も異常はない。


「?アツシ?どうかした?」

「うーん・・・何か視線を感じた様な・・・」

「What!?」


俺が室ちんにそう告げると、大慌てで俺を隠すように前に立ちはだかる。
・・・俺の方が室ちんよりデカいんだからあんま意味ない気がするけど。


「きっとアツシの可愛さに犯罪に走った奴だ・・・!」

「俺に可愛さはないよ」

「アツシはfairyだからな。流石、妖精さん・・・色んな人を惑わして・・・!」

「ねぇ、室ちん?」

「せめて、惑わすのは俺だけにしてくれ!アツシ!!」

「ちょっと話聞いて」

「アツシィイイイイイイイイイイ!!」

「・・・先帰ってるね」


もう俺の先輩は駄目だ。
そう悟って室ちんが持ってるスーパー袋を持って寮へと歩き出す。

・・・ちなみに、未だ室ちんは何か叫んでた。
お医者さん行かせた方が良いかもしれない。
後で誰かに教えといてあげよーと。





「・・・室ちんの分のアイスって残してた方が良いのかな」


寮に着いて今食べない分のアイスを冷凍庫に突っ込む。
殆ど俺の分の中に少しだけ混じってる室ちんの分のアイス。
自分の好きなアイスを買ったから、室ちんのアイスとは種類が違う。


「・・・うぅっ、こっちも食べたいし・・・」


俺の方がいっぱいアイス買ったのに、室ちんのアイスの方が美味しそう。
1個くらい食べてもバレないかな?
バレても室ちんは俺に甘いから許してくれそうだし・・・。
許してくれなくても俺の分のアイスをあげれば許してくれる筈。
うん。そうだよ。
きっと許してくれる。


「って事で、いただきまーす」


ちゃんと手を合わせて言う。
うん、俺ってば良い子。


「美味しそー・・・」


アイスの袋を破れば美味しそうなアイスが顔を覗かせる。
自分が買ったアイスも中々美味しそうだけど、他の人が買った物の方が余計に美味しそうに思えるんだよね。
不思議、不思議。


「・・・室ちん帰って来ないと全部食べちゃうぞー」


アイスを舐めて噛み砕いて、それを数回繰り返す。
もうそろそろ帰ってきても良い頃なのに、室ちんが帰って来た気配はない。
しょうがないから、携帯を取り出して室ちんへメール。
きっと俺がアイスを全部食べちゃうぞとか脅しを掛ければすぐに帰ってくるだろう。


「・・・っ、?」


メールを作成していれば、また何か視線を感じる。
そして、今度は視線だけではなく背筋がゾクゾクする様な感覚も。


「いや・・・怖くなんか・・・ないし・・・」


汗が出てきたけど、きっとこれは夏の暑さの所為だ。
冷や汗とかそう言う類な訳がない。
だって、さっきまで俺は外に居たんだ。
カンカン照りの猛暑の中を歩いてアイスを買って帰ってきて。
部屋の中が冷たくひんやりしてる事に感謝して・・・して?


「・・・くー・・・らー・・・?」


何か気付いてはいけない事を気付いた気がする。
アイスを噛み砕いて食べ終わらせてテーブルに置いてあるクーラーのリモコンへ手を伸ばす。


「ついて、ない・・・」


ねぇ、ちょっと待って。
外はあんなに暑かったんだよ。
それがクーラーなしでここまで部屋が冷たくなる?


「・・・っ、」


こんな部屋に独りで居るのはいけない気がする。
居ちゃいけない。
居ちゃいけないよ。


「室、ちん」


作成中だったメールを消して、室ちんへ電話を掛ける。
1コール、2コール。
何時もだったら、このぐらいで出てくれるのに。
何で今は出てくれないの!?


「留守電とか、マジ有り得ない・・・!」


そうだ。
何も部屋に居ないといけない訳じゃない。
室ちんを迎えに行ってこよう。
まだ何か叫んでるんなら変質者扱いされて困ってるのかもしれないし。


「・・・っ、!」


ドアノブを掴んだ所で、また視線を感じる。
気にしちゃいけない。
気にしちゃいけないのに。


『視線を感じる時ってありますよね。そんな時は―――』


思い出せなかった言葉を思い出す。
確か、そんな時は・・・。


「・・・ぁ、」


そんな話は嘘だ。
そう信じて見たのに。


「・・・ぁ、ああ、」


見上げた天井。
そこにいた。
血塗れの、女の人。
服にも血が付いてて、身体からも血が出てる。


「い、痛そう、だ、ね・・・」


俺がそう途切れ途切れ言えば、女の人は嬉しそうに笑って。
俺に首へと冷たい手を掛ける。
抵抗出来る筈なのに、俺の身体は思う通りに動かない。

あ、俺、死んじゃうんだ。


『シンパイシテクレルナンテイイコネ』


女の人はそう言って、俺の首を絞めた。





視線の元は
(上からなんですよ?)


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今日担当の呀紅夜ですよ( ^ω^)
途中までただの氷紫とか・・・。
と言うか氷室さんが残念過ぎますね。
一体、誰がこんな氷室さんに・・・!!
・・・まぁ、私なんですけどね、ごめんなさい(土下座
でも、視線を感じたら後ろじゃなくて上らしいですよ?
今、あなたも視線を感じたら後ろじゃなくて上に・・・何かいるかもしれませんね。




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