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――慶次さんが甲斐を出てから暫くすると、御館様宛に文が届いたという。
曰く――やっぱり前田家への説得が上手くいかなかったとのこと。
その文は現に私を加賀まで寄越して欲しいという暗示が込められたものであった。
その文の話が幸村さんの耳にまで届くと、すぐに真田軍と佐助さん、小太郎君、そして私が加賀まで進軍する。
…久しぶりの戦だ。
小田原以来の戦に私は恐怖からか少し震える。
そんな私の身体を抱きかかえながら、佐助さんは呟いた。
「…大丈夫。俺様と風魔がついているんだ。名前ちゃんには一歩も触れさせやしないさ。」
…その言葉に少し安堵感を覚えるも、以前の戦とは比べ物にならないほど、佐助さんの私への態度が全く違っていることに気づき、戸惑いも覚えた。
そういえばあの衝撃の発言があったものの、あんまり周りの環境は変わらなかった気がする。
いつものように軽いセクハラを佐助さんに仕掛けられるが、からかわれているような雰囲気は変わっていなかった。
すっかりそのことについて最近まで忘れていた気がしたが、この佐助さんの一言によって、少し思い出してしまった。
…でも、それについて今は考えないでおこう。
だって今から大事な戦の真っ只中に入っていくのだから。
気を引き締めていかなければ。