――幼稚舎から問題の人物が離れてしばらくすると、幸村さんからお呼び出しがかかった。

御館様の命により最初の大広間に集まって欲しいとのことだった。

幸村さんがこちらにやってきた時、酷く元の姿に戻っていた小太郎君を見て驚いていた。


「…何事が起ったのだ?」


…多分、私が危険に晒されることがない限り、小太郎君が元の姿に戻ることはないと踏んでいたのだろうか、幸村さんは酷く狼狽していた。

そんな幸村さんの肩を叩きながら、佐助さんは呆れた声色を隠さずに言った。


「はぁ…旦那が普段から執務を溜めて、挙句の果てにこういう時に皺寄せが来るもんだから、こういうことになるんでしょうが。竜の旦那達、待ちきれなくてこっちに来たんだぜ。名前ちゃんの存在に感づいていたみたいだったし。」

「…む、それはまこと申し訳ないことをした。風魔殿、名前を守っていただき、感謝する。」

「おーい、謝んのは風魔だけなわけ?」

「佐助は別によい。」

「旦那ってば横暴!」


 大袈裟に佐助さんは肩を竦めてみせるが、幸村さんはいつものことだから気にしてはいない。

そんなやり取りを静かに見ていた小太郎君だったが、ふるふると首を振ると、近くにあった半紙で何か書き、幸村さんに見せた。


――「俺もついていってもいいか。」


 幸村さんはその半紙を見つめると、「歓迎するでござる。」と笑顔で応える。

…思えば、小太郎君が元の姿で御館様に会うのは初めてかもしれない。

佐助さんが警戒していないかと思い、佐助さんの方を見ると眼が合い、へらりと微笑ってみせた。


「あの…警戒しないんですか?」

「そんなの今更でしょうが。今の風魔は北条の安泰と名前ちゃんの安全しか考えていないよ。…少なくとも今の風魔のことは信用してるぜ。」


――「信用」。

多分、佐助さんにとって小太郎君に対する最上の言葉なんだと思う。

…いつかそれが「信頼」になればいいな。

私はそんなことを頭の端で考えつつ、躑躅ヶ崎館の広間へ向かう一行に加わった。



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