1
――私は車に轢かれたはずだった。
あの日、学校からの帰り道、ボールを追って車道に出た子供を突き飛ばし、轢かれたら一溜まりもなさそうなトラックに轢かれたはずだった。
…不思議なことに痛みがない。
…トラックの目の前に出た記憶はあるのに。
これって…死ぬ感覚なのかなぁ。
ぼんやりとそう呟いていると、いつの間にか周囲の風景は変わった――
綺麗な花畑に綺麗な小川…まるで天国を思わせるような風景に息を呑んだ。
しばらく歩いていると、白い装束を着た人達が並んでいる。
何となく並ばなきゃと思い、並んでいると私の横を通り過ぎようとして立ち止まった人がいた。
ふと見ると、その人は並んでいる人達とは違って白い装束ではなく、何色とも表現しづらい色の衣を身に纏っていた。
その姿は些か神々しい。
「へぇ…アンタはここの奴等とは毛色が違うみたいだね。面白い。アンタにもう一度やり直す機会をやろうじゃないか。」
…何を言われたのか分からず、その人の顔を見るために見上げると、その瞳は吸い込まれそうな輝きを秘めていた。
「…そのままのアンタじゃすぐこっちに戻って来ちまう。それじゃあ面白くないだろ。俺様がアンタに力をやろう。そうだね…どんな力が良い?人を簡単に殺せる能力、他人を簡単に屈服させる能力…何でも言いな。叶えてやるよ。」
「…人を殺す能力なんて要らない。」
こんな綺麗なところで不釣り合いなことを言う彼を睨んだ。
そんな私を面白げに彼は見つめてからこう言った――
「面白いじゃないの。人を殺させない能力…アンタに預けてやるよ。せいぜい頑張んな。」