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――来る小田原城攻めの日。
この日、私は佐助さんに渡された忍び装束を着ていた。
わぁ、お揃いの迷彩だ…じゃなくてとりあえず忍びということにされるらしい。
この時代、車や電車なんてないもんだから、道中の旅路で結構消耗してしまった。
今じゃ、佐助さんに抱えられたまま移動している。
…っていうかいい年して、おんぶで運ばれるってどうよ。
自分の姿に溜息をつきたくなる。
景色を見ていたら気持ち悪くなったので、佐助さんにしがみついたまま目を閉じた。
つい眠ってしまった私に対して、「…無防備すぎない?」と後に呆れ顔で窘められたのは余談である。
やっと小田原城付近までやって来ると、真田さん達が城下に攻め入る中、私達はそのまま本丸へと空中から…何度も言おう…空中から侵入する。
しがみついた私を今度は横抱きに抱えて、片手では鴉の足を掴みながら城へと侵入する。
すぐに苦無が投げられ、佐助さんは弾いた。
「へぇ…出迎えってわけかい。ご苦労なこった。」
私を抱えながら佐助さんは城の中へと進んでいく。
たまに私に苦無が向かってくるものの、変な効果音と共に狙った人が幼児化し、周囲は混乱状態に陥る。
それを傍から見ていた佐助さんは愉快そうに小さく笑った。
…性格悪いよ、佐助さん。
――本殿のすぐ近くまで来ると、周囲とは異なった空気を纏った赤毛の仮面をかぶった忍が現れた。
「やっとお出ましってか。案外、予想より遅かったもんだけど。」
「……。」
「え、此奴は誰かって?悪いけど…アンタに言う義理もないんでね。先を急がせてもらうよ。」
…え、今の会話成り立ってたの!?
ツッコミを入れたい気持ちを抑えていると、佐助さんは逃げるように先を急ぐ。
…けれど、一筋縄ではいかない相手のようですぐに足を止められ、激しい戦闘を開始した。
私はどうすればいいか分からず戦闘を見守っていると、あっという間に私を狙った苦無が敵の忍びによって放たれた。
寸でのところで佐助さんの放った苦無で軌道が逸れ、私に当たらずに済むと慣れた効果音と共に赤毛の少年が先程の仮面の忍びのところに倒れていた。
「…これで面倒な敵は全て排除完了っと。名前ちゃん、アンタのおかげだ。」
「…もしかしてこれが伝説の忍っていう噂の。」
「そう。あんまりにも登場が遅いから、俺様読み違えたかと思ったもんだけど、計画通り進んでくれてよかった。さ、名前ちゃん。最後のお勤めだよ。」
そう言うと、佐助さんは再び私を抱えて城を昇っていった。
城の本丸にいたのはいい年をしたおじいちゃんだった。
槍を構えてこちらを威嚇する姿はなんだか心苦しく感じる。
佐助さんは私の腕を引いてそのおじいちゃんの下へと近づく。
「さ、武田を裏切ったわけを話してもらおうじゃないの。」
「お、織田から武田を裏切れという書状が届いたのぢゃ。裏切らねば織田によって北条が滅ぼされる……信玄公には本当に悪いことをした。」
「…はぁ、だろうとは思ったよ。どうする?俺様1人だったら、誤って殺しちまったって話でも別にいいと思うんだけど。」
「って物騒ですね、佐助さん。あの、北条様。降伏してもらえませんか。きっと御館様なら悪いようにはしませんよ。」
「…こ、小娘に何が分かるんぢゃ!」
私の「降伏」という言葉に激昂させてしまったのか槍を振り下ろされる。
佐助さんが大きな手裏剣でそれを弾いてくれたから良かったものの、危なかった。
当初の予定通り、北条氏も幼児化したところで佐助さんは鴉を飛ばした。
程なくして外で真田さんの勝利の叫びが聞こえる。
…計画通りいったこの戦は私の能力を佐助さんによって使いこなすことで幕を閉じたのだった――