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第二十三話 「猿飛さんちの縁側にて」




――妊娠発覚後から沢山の人がこちらの屋敷にやってきた。

皆、何故か上田城本城ではなく、猿飛さんちの方にやってくる。



 最初に訪れたのは私の義理の父でもある御館様だった。

…なんでこちらに来られたんですか?

別に上田城に呼んでもらってもよかったのにと思いながらも、背後に控えていた、困り果てているような表情の佐助さんと満面の笑みを浮かべている幸村さんを見ると、そんなことは言えず、御館様に向かって笑みを作ってみる。


「御館様、このような場所まで足を向けていただき、ありがとうございます。あの…躑躅ヶ崎館とか上田城に呼んでいただければこちらから出向いたのですが。」

「よい、よい。おぬしは、今は身重の身。安静にしておくのが一番よのう。のう、佐助。」

「そうですね。俺としては上田城の方で会えばよかったと思いますけど。」

「何言っているのだ、佐助。御館様たっての希望であるぞ、名前殿の普段過ごされている場所でお会いしたと申されたのは。」

「幸村の言う通りよ。わしは名前がこの地でどう過ごしているのか一度見ておきたかったんじゃ。それにわしにとっても孫となる御子じゃぞ。流れぬよう慎重になるのも無理はなかろうて。ただちょいとばかしわしの予想よりも早かったがの。」


 御館様の指摘に対して、私と佐助さんは空笑いを浮かべる。

「…お前のせいだよ、お前の。」と佐助さんに言いたくて、横目で見てみたが、ふいと逸らされる。

その様子を見ていた御館様の目が悪戯っぽく煌めき、豪快な笑い声を上げる。

その隣で同じく目を輝かせる幸村さんがいた。


「まあ、よい。夫婦仲がよいことはよきことよ。幸村!おぬしも早く嫁を娶れい。おぬしの御子もわしは早う見たい。」

「御館様…そ、それは……破廉恥でござる――――!」

「ってちょっと旦那!?」


 幸村さんは一瞬で顔を真っ赤にして物凄い速さで逃げていく。

そんな幸村さんを面倒そうな顔をして佐助さんは見た後、追っていった。

その後ろ姿を見て、御館様は「やれやれ…精進が足りぬようじゃのう。」と呟いた。

…御館様、もしかして楽しんでいませんかね。


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