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第三話 「上田城敷地内湯殿にて」




――朝餉の時間も大幅に過ぎたころ、私は目を覚ました。昨日のせいか、全身が痛い。

…1人で起きられなさそうだ。

起きようか起きまいか悩んでいたころに、佐助さんが襖を開けた。

もう既に勤めに出ていたみたいで、昨日のような袴ではないが、羽織のない甲冑の下に着るような袴を着ている。

昨日のものが大紋と呼ばれるのであれば、今日着ている袴は鎧直垂といったところか。

私がじろじろと見ていたのに少し照れたのか、佐助さんはこちらから少し目を逸らした。


「…しょうがないでしょ。旦那が武人となれば、服装もそれらしくしろとか言うし、いつもの忍装束で仕事させてくれなかったんだからさ。」

「似合っていますよ、佐助さん。多分見られるのに慣れてないのもありますもんね。」

「…忍は見られるような仕事しないしね。それより身体はどう?昨日は少し無理させちまったからね。」


…全然少しではなかった気がするんですが…とは言えず、曖昧な笑みを浮かべると、佐助さんはいつの間に用意していたのか膳(多分朝餉の残り)を取り出し、粥を匙で掬って私の口の前に持ってきた。

…まさかここでもやるの!?


「…さすがに自分で食べられますから。というかここ、真田の忍隊の皆さんもいらっしゃるんですよね?かなりの羞恥プレイじゃないですか。鎌之介さん、才蔵さん!」


 私が焦りながらも名前の知っている忍の皆さんを呼ぶと、天井裏からおずおずと新しい忍が出てきた。

…どことなく幸村さんに似ているような。

そう思っていると、彼はぺこりと頭を下げて、自己紹介をしてくれた。


「穴山小助と申します。才蔵も鎌之介も今、任務に出ているので、名前殿の護衛を任されていました。あの…何かありましたか?」

「小助、下がってていいよ。名前ちゃんの護衛は俺がここにいる間は自分でやるから。」

「…承知いたしました。」


 佐助さんがそう言うと、小助さんはこちらに挨拶してから再び天井裏に戻る。

佐助さんはその様子を静かに見やると、再び匙を持ってこちらにやって来た。

その顔は幾分か楽しそうだ。


「さてと…人払いもしたし。いいよね、名前ちゃん。名前ちゃんの身体の負担にならないように俺様が食べさせてあげる。」


 この流れになったらもう逃げられない。私は観念して口を開けたのだった。


 雛鳥のように佐助さんからご飯を貰う私。

佐助さんは「何もできない名前ちゃんをこうやって世話するのっていいよね。」とかどこかうっとりした表情で言っていた気がするけど、何となくそれはそれで危険な香りがした。

あれだ…庇護欲というより支配欲に近い何かを感じるからだ。

私は少し遅い朝餉を佐助さん手づから頂いた後、同じく佐助さんに襦袢の上に簡単な内掛けみたいなものを着せてもらってから再び勤めに出る佐助さんを見送ったのだった。

…なんか、駄目人間になってる。

ちゃんと自立しなければと私は誓いを立てたのだった。


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