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第二十二話 「猿飛さんちの寝間にて」




――あの出来事から数日後、私はしばらく体調を崩していた。

最初は異様に眠たくなり、熱があるように感じられ、ちょっと体調がおかしいなと感じていただけだったが、夜に寝苦しくなってからは昼間にこうやって横たわって過ごすことが多くなってしまった。

佐助さんは心配そうに私を見ていたものの、彼も相変わらず仕事を沢山持っており、あまり私の体調に構っていられないようだった。



 今日はまだ体調がいい方だ。

私はそう自己評価を下して、布団を片づけ座る。

冬も本格的に始まり、火鉢なしでは厳しい温度だ。

ひざ掛けを被るようにしながら、火鉢の前に座る。

…大分あったかくなってきたな。

温かくなると、やはり行動したくなるもので、厨で何か作ろうと思い立ち、立ち上がると、襖が開いた。

――そこにいたのは片倉さんだった。


「猿飛からお前が寝ていると聞いてな、勝手に邪魔させてもらった。…もう身体の方はいいのか?」

「あ、はい。一瞬、吃驚しました。佐助さんだったら、説教コースですから。」


 私がそう言うと、片倉さんは深いため息をつき、「まだ万全じゃねぇってことじゃねぇか。」と言って私を睨んだ。

先程私が片づけた布団を敷き直し、強制的に寝かされた。

…この人が佐助さんと同じ保護者枠だってこと、すっかり忘れていた。


「…今日は本当に大丈夫なんですってば。強いて言えば、味覚がおかしいってことくらいですし。」

「それは大丈夫のうちに入らねぇよ。…にしても、風邪が長引いているのか?」

「さぁ……。」

――私はふと最近の自分の体調の悪さを思い返してみた。

眠たい。熱っぽい。寝苦しい。味覚が変わる。風邪っぽい症状……これってまさか。

ある一つの結論に思い立った私はスマホを開き、その症状を羅列して検索してみる。

…やっぱり。

私がスマホを持ったまま、思案しているのを不審に思ったのか片倉さんがスマホを覗き込んでくる。

…これは何となく見られたくない。

あからさまに私が隠すような仕草をしてみせると、片倉さんは眉を顰めた。


「…俺に見せられねぇようなものだったのか?」

「…いや、私の病の一つの可能性を調べていたんですけど、まだ確証が得られないというか…とにかく見せたくないんです。」


 私が頑なにスマホを抱きしめたまま、片倉さんと向かい合っていると、タイミング悪いことに佐助さんが帰ってきた。

…これ、ピンチじゃない?


「…右目の旦那、名前ちゃんを任せてごめんね。まったく旦那も勘弁してほしいもんだぜ。執務ほっぽり出して、竜の旦那と一戦するってきかなくてさ。おかげで忍隊を左官仕事に回す羽目になっちまうし。あとで竜の旦那にも言っておいてよ。人んちの庭で暴れるなって。」

「…その件はすまなかった。」


 おお、なんか保護者懇談会が開かれているぞ。

これはチャンスなんじゃないかな。

私は2人の目を盗むようにして、スマホを仕舞い、寝転がる。

…寝たもん勝ちですよね。

私が狸寝入りを始めると、途端に周囲が静かになる。

…これは子供たちの様子を見に行ったのかな。

私は確認するように恐る恐る目を開けると、綺麗に笑顔を作る佐助さんが目の前に現れた。

これは…事情を片倉さんから聞いたに違いない。

眼が完全に尋問の時の鋭い眼差しだ。

思わず佐助さんから顔を背けるようにすると、同じく鋭い眼差しの片倉さんがいた。

…「前門の虎後門の狼」ってまさにこのことだよね。


「…で、名前ちゃん。何か俺様に話すことあるでしょ。」

「…何のことでしょうか。」

「ふーん…まだ白を切るつもり?勝手に布団片づけて起きあがっていたことから、さっき右目の旦那に病のこと隠したのも、全て右目の旦那から教えてもらっているんだけど。まったく旦那もだけど、名前ちゃんも随分手間かけさせるよね。」


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