第十九話 「上田城の祝言の間にて」
――私が甲斐の躑躅ヶ崎館に着いてから数日後、予定通り祝言が行われた。
躑躅ヶ崎館は私が着いた時点で既に嫁入り道具は揃っており、後は私の到着を待っているところだった。
御館様との挨拶もそこそこに2日間は武家の祝言の段取り、礼儀作法を武田の家臣の奥方様から習った。
そして今、現代で言う白無垢を着て輿で運ばれている。
…なんだか最近、町人のような着物ばかり着ていたから緊張する。
私は鼓動が速くなる心臓をさすりながら、緊張を解くために深く溜息をついた。
上田城に到着すると、城門には門火を焚いて待っている人がいたり、門の中では餅をついている人たちもいる。
…これがこの時代の婚礼の儀式みたいなものだろうか。
あんまりそういうところに明るくないものだから、分からないけど。
私がそれを輿越しに眺めていると、城の中まで担ぎ入れられた。
そして、祝言が行われる間まで進み、着座する。
佐助さんはまだ来ていないみたい。
ふと天井を見やると、馴染んだ気配が感じられる。
…多分才蔵さんだ。
大方、私に見ていることを知らせるために、気配を漏れさせているのだろう。
私はそこまで気づくと笑みを漏らした。
なんか才蔵さんのおかげで緊張が解れたみたい。
程なくして佐助さんが現れた。
なんか佐助さんが白い装束を着るのは初めて見た気がする。
私がまじまじと佐助さんを見つめていると、佐助さんはそっぽを向いた。
その横顔はどことなく恥ずかしそうだ。
…なんかすごく可愛げがある。
私が再び笑みを漏らすと、天井裏に潜んでいる才蔵さんも佐助さんの様子が面白かったのか、微かな物音をたてていた。
物音が立つと同時に、佐助さんは才蔵さんの方を睨む。
久しぶりに見たな、その光景。
私達2人が出揃うと、式三献が始まる。
三三九度の盃が回ってきてお酒を煽る。
この儀式は現代でも残っているから、知っていることは知っているけど、実際やるのは初めて。
この間の謙信様から贈られたお酒を使っているようで、正直少しきつかった。
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