第九話 「武蔵国江戸城にて」
突如、私の意識が浮上する。
あれ…何していたんだっけ。
さっきまで三途の川にいたはずなのに。
六文銭もないから、拒否されたのか?
私が目を開けた瞬間、佐助さん(何故かボロボロ)が涙目で飛びついてきた。
あ…なんてこれデジャヴ?
「…私、何してましたっけ?」
「風魔殿と話していた時に、佐助が首にしがみついた後、意識を飛ばしてしまったのでござる。名前殿、大事はないか?」
「六文銭持ってなかったので、あの世から拒絶されたくらいですかね。」
「マジで三途の川渡りそうになってたのかよ……。」
「名前ちゃん、ごめんね。俺様、もっと気を付けるから。」
「反省しろ、佐助。」
…成程、佐助さんがボロボロになっているのはそういうことか。
佐助さんを諌める幸村さんとしょげる佐助さん。
何だかしょげている佐助さんが珍しくて、佐助さんの頭を撫でてみる。
周囲は驚きを露わにするが、私達と幸村さんはいつものことなので、さして気にはしなかった。
私が目覚めたところで、慶次さんや北条氏は部屋を出て行く。
存分に佐助さんを撫でてやると、佐助さんは嬉しそうにする。
その様子を見て満足した私は起き上がり、これからの予定を幸村さんに聞いた。
「幸村さん、今日はどこで泊まりましょうか?ここから江戸って確かあと県を1つか2つ越えないといけないですよね。」
「うむ、それ故、今日は北条殿に泊めてもらうことになったのだ。今いるこの部屋をお借りする。今日も名前殿と一緒に寝ることが出来るな。」
「勘弁してよ、旦那。今日こそは夫婦水入らずで過ごさせてよ。」
「…さっき名前を殺しそうになったのはどこのどいつだったか。鍛錬が足りぬと見えるな。」
幸村さんの言葉に佐助さんは目を逸らす。
…幸村さん、なんかすごく主らしいです。
私の視線を感じたのか、幸村さんは私にいつもの人懐っこい笑みを向けて言った。
「名前殿、先程北条殿から甘味を頂いたのでござる。共に頂きましょうぞ。」
やっぱりこっちが似合うよな。
私はそう思いながら、幸村さんから頂いた菓子を口付けるのだった。
prev | next