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第七話 「甲斐武田領にて」




――政宗さんの宴の数日後、私は躑躅ヶ崎館にいた。

御館様に会い、頼まれた手紙を石田さんに渡す旅に出たいと申し出るためである。

ここまで来るのに何日間かかかったにはわけがある。

幸村さんに関してはあの宴の後、すぐにそうしたいと申し出たら快い了承を頂けたのだが、実は佐助さんを説得するのが、一番時間がかかった。

幸村さんも佐助さんも忙しそうだし、1人で、あるいはかすがを呼んで2人旅と考えていたのだが、佐助さんの不機嫌そうな声で即却下されてしまった。

理由としては、主に佐助さんの目の届かない場所に行ってほしくないとのこと。

あまりにも予想通りの理由だったものだから、驚きはしなかったが、苦悩はした。

だって忙しそうだもん。

駄目もとで「じゃあ佐助さんと行く。」と行ったところ、佐助さんは喜び勇んで幸村さんの下へ行き、他国の情勢調査という大義名分(名ばかり仕事)をもらってきた。

…行動力半端ねぇ。

そして今、幸村さん達と一緒に御館様に会いに来たのである。

御館様の前で3人並んで座る。

久しぶりに緊張しつつも、私は口を開いた。


「御館様、いえ…養父上様。私、武田名前は前の世界で頼まれました文を石田様に渡したく、旅をする所存でございます。共には許婚である佐助様に同行していただきます。どうか許していただけないでしょうか。」

「ふむ…それはよいが、おぬし。石田の居所の見当はついておるのか?」

「そのことなんですが…先に徳川様にお会いしてから、お聞きしようと思っております。私の予想ではおそらく薩摩だと思います。」

「…何故にそう考える?」


 御館様にそう問いかけられて、私は言葉に詰まる。

私がそう予想したのは史実の真田幸村が大阪夏の陣では死なずに鹿児島に落ち延びたという諸説が残っていたからだ。

思慮深い徳川家康のことだ。

江戸よりも遠い場所に配置しているに違いない。

そのようなことを少し遠まわしに御館様に伝えると、御館様は髭を触りつつ感心したような声を出す。

…あれ?もしかして当たった?


「ほう…のう佐助。お前に調べさせていた件、どうなっておる?」

「はっ…石田三成の居場所ですが、島津領谷山に潜伏しているとの報告がありました。おそらく徳川がその辺りに幽閉している様子。」

「ということは名前の予想も案外役立つかもしれんのう。」


 佐助さんのした報告の場所は確か真田家が逃れた時の墓があった場所だ。

…もしかして史実の真田幸村をなぞっているのは石田三成なのか。

私がそう思案していると、幸村さんが御館様に申し出た。


「某、名前殿の徳川との面会に同行致したく候。徳川殿は今の天下人故、中々、武田の養女という身分のみではお会いするのが難しいと思うのでございまする。」

「よく言った、幸村よ。江戸まで名前と佐助との旅に同行するがよい。徳川殿にはわしが文を書いておこう。上田のことはわしに任せい。本日中に出発するとよい。冬に近づけば、旅もしにくくなるだろうて。」

「御館様!」

「幸村!」

「旦那!頼むから、何も壊さないでくれよ!」


 無事、御館様の許可も頂くことが出来、感極まった幸村さんが御館様と殴り愛を始めた。

それを見た瞬間、焦った佐助さんが注意をする。

…が、あれは聞こえてないな、こりゃ。

私はがっくりと項垂れる佐助さんを見ながら空笑いを浮かべた。


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