第六話 「上田城大広間にて」
躑躅ヶ崎館の宴があって早くも1か月が経った。
その間、私にとっては充実した毎日が送ることが出来ていた。
宴が終わってすぐに武家の女子としての一通りの手習いから始まり武術までの教養を主に真田十勇士の方々が先生となって学び始めた。(潜入任務の時に必要だったのだろうが、皆先生が出来るほどに素晴らしい所作だった。)
そのおかげで簡単な着付けと手紙の読み方及び書き方なら出来るようになってしまった。
しかし、未だに料理などの日常生活で必要なことについては教えてもらえない。
気になって、普段私の傍で女中仕事を行っている鎌之介さんに聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「長が嫌がるんだよ。こちらの日常生活で必要なことを覚えちまうと、自分を頼ってくれなくなっちまうからだってさ。アンタ、またえらいのに好かれたもんだね。」
「…相変わらずですね、佐助さん。」
私は改めて佐助さんの異常なる重い愛を感じ、溜息をつくと、嫌がる鎌之介さんに頼み込んで日常生活のあらゆる所作について佐助さんには内密で教えてもらうことにした。
…だってこちらに来てからずっと佐助さんの言いなりじゃないか。
幸村さんは国主のようなものだから忙しいみたいだし、周囲の頼れる人間は佐助さんの部下だけだから、私が自由に外へ出歩くのを許してくれない。
もちろん危険だからということもあるだろうし、私が武田家の養女になったからというのもあるだろうが、私の動作1つ1つが佐助さんに報告がいっていると思うとやっぱり息が詰まる。
少しは佐助さんの目の届かないところでゆっくりしたい。
そんな私の内心を打ち明けると、鎌之介さんは「俺達忍は今まで色々なものを諦めているせいか、一旦自分のものが出来ると執着しちまうのさ。」と佐助さんのフォローに回りながらも、私を可哀想に思ったのか、内緒で色々教えてくれることになった。
やったね。
prev | next