第五話 「躑躅ヶ崎館にて」
待ちに待った武田にお披露目の日がやって来た。
日も昇っていないような早朝に佐助さんに叩き起こされ、朝餉もそこそこに鎌之介さんと特別に上田城から呼び寄せた女中頭のあやさんに引き渡され、着付けされる。
いつもは数枚で終わる着付けも今日ばかしは何枚も重ねられる。
息苦しいほど着こむと、今度は化粧だ。
七五三のような極まりが悪い気分になりながらも、一生懸命我慢する。
やっとすべての準備が整ったところで、佐助さんと合流する。
佐助さんの顔も若干、疲労感が漂っている。
だって初日に着ていた大紋をまた着させられていたからだ。
その色は萌葱色で真田の家紋が見える。
「似合ってますよ、佐助さん。」
「名前ちゃんも綺麗だね。はぁ…これから御館様のところに行くのか。俺様、気が重いよ。」
「頑張りましょうね、佐助さん。」
肩を落とす佐助さんと慰める私の前に立派な駕籠が現れる。
…そりゃこの着物で馬は乗れないよなと思いつつ、引き攣った顔で佐助さんを見やると、佐助さんの顔も引き攣っていた。
そうか、忍だったから、こんな立派な駕籠に乗ったことないのか。
ある意味、自分よりもショックを受けている佐助さんを見て優越感に浸った。
「どんまい、佐助さん!」
「…って俺様見て、遊んでるよね!?」
いつもより余裕のない佐助さんを愉快そうに眺めてから、用意されていた駕籠に乗り込む。
…どうやら中は意外に居心地よさそうだ。
仮眠をとっておこう。
私は駕籠の中で横たわり、目を閉じる。
人力で運ぶ駕籠のため、気持ちよい揺れを感じ、そのまま眠りについた。
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