終幕 「異世界の自分の居場所にて」
――早いもので、佐助さんとの子供が生まれてから2年経った。
定期的に上田へ様子を見に来る政宗さん達は本日も上田へやって来た。
上田に毎回来ては上田城からこちらの屋敷へとやって来ては、政宗さんはうちの息子を抱き上げる。
まじまじと息子の顔を見ると、政宗さんはどことなく忌々しげに呟いた。
「Ha!見れば見るほど猿に似やがる……。」
「今更、何言ってんの。俺様の子供だから当然でしょうが。」
橙色の髪に子供らしい真ん丸な目…将来美形になることを約束されたような容姿を持って生まれた我が子は驚くほど私の面影もなく、成長するにつれてますます佐助さんに似てきているのであった。
…なんか自分の子なのか自信なくなってきた。
「間違いなく私のお腹から生まれたから、私の子供には違いないと思うんですけど……。」
「大丈夫だ、お前の子に間違いはねぇ。じゃなきゃ、政宗様に抱き上げられて、あんな屈託なく笑うはずがねぇ。」
「それもそうだな。猿がこんな風に笑うなんて…想像したくねぇな。」
「…生憎俺様も竜の旦那にそんな想像されたくないし。」
睨みあう佐助さんと政宗さんの間には尚も無邪気な笑顔を浮かべる我が子…――この子、意外と大物なんじゃないか。
本格的に喧嘩し始めたら我が子を避難させようと身構えていると、私よりも先に我が子を抱き上げる手があった。
内務を終わらせてきたという幸村さんだった。
高い高いをするように抱き上げると、キャッキャッと笑う。
その様子を見た幸村さんは感心したような声色で言った。
「…さすが弁丸だな。斯様な殺気にあてられても無邪気に笑うとは。立派な男になるぞ。」
「だんなーー。」
ちなみに「弁丸」とはうちの我が子の名前である。
名付け親はもちろん幸村さんだ。
曰く、「佐助」は私に会えたのに、「弁丸」は私には会えなかったという幸村さんなりの持論があったとのこと。
その理由も含めて、私と佐助さんはその名でいこうか審議はしたのだが、十数年すれば名を変えることもあるだろうということで、上司の希望を尊重させたのだった。
ただ、佐助さんは「弁丸」を呼ぶのに慣れてはいないみたいだったが。(様付けしないで呼ぶのに戸惑うらしい。)
幸村さんの腕の中で無邪気に笑う我が子は幸村さんのことを「だんな」と呼んで笑う。
今なお佐助さんと小競り合いしていた政宗さんはその様子を見て眉を顰めた。
「おい、名前…あれは猿の教育の賜物か?」
「ああ、佐助さんがいつも幸村さんをああ呼ぶもんだから覚えちゃったんですよ。他にも私のことを「名前」と呼んだり、政宗さん達のことを「りゅう」、「みぎめ」と呼んだりしますね。…なぜか佐助さんだけは「ととさま」と呼ぶんですけど。」
「名前、いい加減猿に言葉を教えさせんのはやめておけ。アイツは碌なこと教えねぇ。」
「よく言うよ。独眼竜もそろそろ弁丸に変な言葉を教えるのやめてくんない?「Come on!」とか…うちの子が竜の旦那みたいに似非日本語話すようになったらどうすんのさ。」
2人はお互い煽り合うと、またもや睨みあう。
しばらくして片倉さんが間に入り、2人の喧嘩が力ずくで仲裁された。
私は政宗さんから貰った甘味をとってくるという幸村さんから、弁丸を譲り受けると胸元に抱き寄せた。
「喧嘩は駄目なのにねー。」
「ねー。」
私の真似をして小首を傾げる我が子はすごく可愛い。子供って正義だよな。そう感じた私はますます我が子を抱きしめたのだった。
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