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ぬらりひょんに屋敷から拉致されて一時間くらい経った。いや勝手にすればと言ったから拉致ではないんだろうけどさ。

「何か気になる物はあるか?」

「別に」

「腹は減っておらんか?」

「別に」

「おっ簪なんかどうじゃ?」

「いらない」

「不機嫌じゃのう…」

うん。自分でもずいぶん素っ気ないとは思ってる。けどさ。こんな…あのぬらりひょんにお姫様だっこされて街中を歩いてんだよ。いくら畏れで見えないとは言え恥ずかしいわ!

「いつも男の振りをして出歩いておるのか?」

「うん。退屈だから」

「そうか。なら特別気になる物はないんじゃな」

「そうだね、ないよ。だから下ろせ」

「嫌じゃ」

即答された。くっそ楽しんでるだろわざとだろニヤけやがって。

「顔が赤いのう」

「くたばれ変態ジジイ」

「酷い言いようじゃ」

「初対面で身体の腺がどうの言ってきたお前は変態以外の何者でもないだろ」

「そうかのう?」

くっそぬらりくらりかわしやがって。もう一回大事な部分を蹴ってやろうかコノヤロウ。

「おっ」

いきなり走り出すぬらりひょん。何だ何を見つけたんだ。

「おい李緒、欲しい物を選べ」

ぬらりひょんが立ち止まったのは射的。え。何故祭りでも無いのにあるんだ。

「お主が欲しい物を取ってやるぞ」

「だったら…あれがいい」

「あの石のついた輪じゃな」

天然石のブレスレットがあった。南蛮貿易とかで入ってきたヤツかな。私が指をさしたブレスレットに狙いを定めるぬらりひょん。真剣な表情が普段のへらへら(?)してるのと違ってやばいんだけど。ギャップに弱いんだよ私ってば。
パンッと発砲した音に次いでブレスレットが落ちる。やべ、一発とかどんだけ命中率あるんだよ何者だよお前。

「ほれ」

「…あ、ありがとう…」

頬が緩まないように顔に力を入れつつ受け取る。すると何か不満があったのかぬらりひょんは眉を寄せた。

「もっと喜ばんかい」

「うっ、嬉しいってば!」

「ちっともそうは見えんが」

だってぬらりひょんの前でそんなデレた態度とりたくないもん。つか店主がニヤニヤしてるから余計にだな。

「さて、あんまり遅いとお主が疲れてしまうからの。戻るか?」

「…うん」

正直戻りたくないんだけどね。楽しいから。ぬらりひょんは諦めるとしても楽しい時間は有したっていいじゃん。でも、そうも言ってられないよね。


屋敷に着いて、そして、いつもどおりにぬらりひょんが『またな』と言って踵を返す。

「っ妖!」

「それはわしの事か?」

「お前以外に誰が居る」

「くっくっ…」

「笑うな!…今日は、楽しかった。ありがとう」

「李緒!?」

「それだけだ。じゃあな。さっさと帰れ」

そう言い放ってピシャッと襖を閉めてやった。暫く経って嬉しそうな笑い声が聞こえてきて、そして『わしも楽しかったぞ』と聞こえた。それと同時に庭から気配が消える。

「…ぬらりひょん」

もう会いたくない。これ以上会えば本当に私は後戻りできないくらいに好きになってしまう。

「いや、もう、遅いかな…」

ぬらりひょんから貰った水晶のブレスレットを置く事すら出来ずにずっと抱きしめているのだから。それから結局、腕に着けたまま寝てしまい、翌日の朝になっても外せなかった。




2013.02.27 15:03



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