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翌日の夜。私は後悔していた。
何故前世での名前をぬらりひょんに教えた。いや好きな人にはそりゃあ名前で読んで欲しいからであって…って、好きな人!?

「やだやだ」

無意識に好きな人って言ってる時点でもう惚れてるの確定じゃん。あらやだ。

「…いくら畏れがあろうと扉を閉めてれば」

「残念じゃったな」

「ひぃぃぃぃ!」

「何じゃ。わしが嫌いか」

どかりと隣に腰を下ろすぬらりひょん。手には祢祢斬丸。あ。取られた。

「お主は恐ろしいからの」

そう言って刀を向こう側に置く。ちょ、待て。私のだぞ。

「もう斬らん」

「………」

「…何だその目は」

「いや…この間の神通力以外に、何か能力があるのかと思ってな」

「そんなもの…」

「ならば何故、わしの名を知っておったのじゃ?妖怪の基本である畏れの存在をしっておるのじゃ?」

独り言の多い自分を恨むぜ畜生。

「カミングアウトしたくない」

「仮眠具合う戸…?」

やめろそんな可愛い反応するんじゃない。しかも何かその字面ホントにありそうなんだけど。仮眠道具に合った戸みたいな。なにそれいらねえ。

「言えんか?」

「…いずれ機会があれば話す」

「そうか…ならこれだけは答えてもらうぞ」

やけに真剣な瞳に見つめられる。彼は何を聞くつもりなのだろうか。

「お主は何を怯えておる」

「…は?」

「この間初めて会った時もじゃったが…わしに向ける目には怯えがある」

「別に怯えてなんか…」

「言え」

有無を言わさない声に竦み上がる。言えるわけ無いじゃん。
暫く黙っていると、ぬらりひょんに抱きしめられた。耳元で声がする。

「わしはな…お主を好いておる。お主に一目惚れしたんじゃ」

「………」

「…李緒?」

「私の…私の何を知ってるっていうのよ!」

勢いで立ち上がって怒鳴る。知られたくない。踏み入られたくない。そんな領域にずかずか入ってくるようなこの態度が嫌だ。

「大体一目惚れって何なのよ!私を知りもしないで!」

「じゃから今知ろうと…」

「知らなくていい!」

「……李緒」

「何?」

突然静かに名を呼ばれる。手を引かれてそのまま逆らわずに座ると優しく抱きしめられた。

「ヒトが怖いか」

「っ……そんなことは…」

「自分を知られるのが怖いか。距離を無くすのが怖いか」

「………」

「自分を信じられんか」

「………」

一瞬だけだけど、反応してしまった。肯定したようなものだ。気づかれて無ければいいと思うけどこのヒトが気づかないなんて事あるはず無い。でも、たったこれだけで見抜かれてしまうとは思わなかった。

「…のう、外に行かんか?」

「……勝手にしたら」

「なら行くぜ。捕まってろ」

ぬらりひょんは私を抱えて外に出た。堂々と歩いて門から出るが屋敷の人間に気づかれた様子は無い。私が驚かなかったからか、ぬらりひょんは私を見下ろして一言。

「何も聞かないんじゃな」

そう言った。私は何も答えずぬらりひょんに身を任せる。華やいでいる京の街が今の私の目には眩しく映った。



2013.02.27 14:35



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