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羽衣狐の腹に手をかざしたと同時に、階段を掛け上がる足音が聞こえてきた。

まさか、と、期待してしまう。

私が後ろを振り向いたと同時にぬらりひょんが飛び込んできた。私と羽衣狐の間に割って入りつつ刀を振り下ろすも周りの妖怪たちに止められた。後ろに退いたぬらりひょんの背が露になる。観音の描かれた大きな入れ墨。

「……ヤクザ者か」

「わしは奴良組総大将ぬらりひょん。こいつはわしの女じゃ。わりいがつれて帰るぜ」

「なんと……妖が人を助けに?異なことをする奴じゃ。血迷うたはぐれ鼠か何かか…!?」

その瞬間ぬらりひょんの背後に百鬼夜行が現れた。次々と着地する下僕たちを一瞥してぬらりひょんが笑った。

「なんだ…きたのかてめーら」

「百鬼夜行ですからな」

「入れ墨だけじゃーさびしいでしょう」

「バカな奴らじゃ」

「………何やら珍客が多いのう。力の差もわからぬ虫ケラが。誰か余興を見せてくれる者はおらぬか?」

「我が名は凱郎太!!羅生門に千年すまう者!」

妖怪の戦いが始まった。アニメや漫画とは違うリアルな戦い。刀傷からは中の肉が見えていたり血が噴水のように噴出したり…戦いに身を置いた経験のない私にはキツい場面だがこうでもしないとぬらりひょんは魑魅魍魎の主になれないんだ。

戦いに怯えていると、私を腕に納めている羽衣狐の前にぬらりひょんが立っていた。


「のう、珱姫。お主はあのうつけに惚れているのであろう?」

「そんな事はありません」

「目は口ほどにものを言う。お主、今どのような目をしておるかわかっていないのか?」

「それは…」

「お主が妾を手にかけようとした事、よもや妾が分からないとでも思うてはおらんだろうな」

「う……」

羽衣狐の手が私の顔に触れる。近づいてくる顔を押しとどめようとするがまったく歯が立たない。

「わしの女に触んじゃねぇ!」

「だめ、止まって!」

私の静止もむなしく、突っ込んできたぬらりひょんは羽衣狐の尾によって倒れてしまった。

「ほうら、やはり惚れておるのじゃろう?そしてこのうつけもこの姫に惚れておると…この芝居は本当に奇想天外じゃ。ますますその生き胆肝、喰ろうてみたくなったわい」

「李緒ーーーっ!!」

私の想いが知られてしまったとか、そんな事はどうでも良かった。ただ、目の前で血を吐きながら私の名を叫ぶぬらりひょんが好きで愛しくてたまらなかった。私の為にボロボロになっていくぬらりひょんを見て、涙が溢れてきた。





2013.02.27 21:12



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