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どうして私は夜道で父親を殺すであろう妖怪に攫われてしまったのか。原作通りじゃない。

それにぬらりひょんに見られてしまった。私が攫われてしまうところを。これでは私の努力が水の泡ではないか。




淀君もとい羽衣狐の前には事切れた宮子姫と貞姫が倒れていた。どうして。一日誤差が出来てしまっている。苔姫はまだ生きている。どうしてどうしてどうして。
私の所為…そうか、私の所為なのか。私が珱姫として生まれてしまったからか。

ぬらりひょんが肝を取られずに済む事ばかりを考え、逆の可能性を全く考えていなかった。自分の馬鹿さ加減に失笑してしまう。

「近う…」

手招きされる。少しでも遅く歩いて時間を稼いだ。無駄かもしれないが。でも、苔姫は生き延びて欲しい。私は構わないが、まだ小さい苔姫はもっと生きて色んな事を知って、未来を歩むべきなのだから。

「京一美しい姫…さすがじゃ」

「そんな…淀殿の方がお美しゅうございます。私など淀殿の前では目も当てられぬ程度」

「ほう…謙虚じゃのう…」

「時に、この二人の姫君は如何なさいましたか…?淀殿の不遜を働いたのでございますか?」

「おお…そうじゃ」

羽衣狐は愉快に笑う。時間稼ぎをするためにあえて会話を長引かせる。そのためには間違った解釈をし続けるしかない。

「何と…斯様にお美しく素晴らしき淀殿に不遜を働くなど愚劣の極みでございますわ」

「おお、何と言う口をきくのか。おしとやかと聞いておったが」

「申し訳ございませぬ。これが私の本性にございます。金に狂った父上を見てまいりました故…」

「そうじゃったか、可哀相に…」

抱きしめられ、頭を撫でられる。気が抜けない。大妖怪のこの女は余興が大好きだから今はまだ何とかなっているのかもしれないが…。

「気に入った。そなた、側室ではなく妾の子にならぬか?」

「もったいなきお言葉でございます」

原作から遠のいて行く。この先どうなってしまうのか、検討がつかない。ぬらりひょんは魑魅魍魎の主になれず死んでしまうのだろうか…その可能性だって大いに有り得る。私はもしかしたら、とんでもない事をしてしまったのだろうか。

「どうした珱姫。顔色が悪いが」

「…淀殿、腹にややが居りますね?」

「おお、おお…よう分かったのう」

「これまで様々な者を治癒して参りました。その中には勿論ややを宿した女子も居りました故に」

「ほう…賢いのう、そなたは」

「淀殿のややに私の神通力でお助けしたく存じます」

「妾のややは何か問題があるのか?」

「いえ、力を分けて差し上げたいのです。そして出産となれば母に負担がかかると聞きます。ですから、淀殿のためにも」

「よいよい、そこまで言うならばやって見せよ」

「はい!」

掛かった。これが成功すればいいけど…その確立は限りなく低い。でも…ぬらりひょんの負担を減らしたいんだ。
平和な時代で暮らしてきた前世。ヒトを癒す力を持ち様々なヒトを癒した今生。戦いに身を置いた事などない私がそう簡単に傷を負わせられるとは思わないけれど…ぬらりひょんの事を思うだけでも、力が沸いてくる。

私は両手を掲げ、淀殿の腹に掌を当てた。



これで、十分だ。この気持ちだけで…。






2013.02.27 20:31



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