04 現れた青年

「家を空けなければならない事情ってなんなの? 空也さん」

 言がそう尋ねようとしたときだった。

「空也、いる?」

 玄関から急に聞こえてきた第三者の声は、言の言葉を遮るようにして耳に届いた。

「いるよー」

「キャー!! 瑠璃弥くんっ!! 久しぶりやわぁっ!!」

 その声に空也が返事をしたが、それよりも早く瑠璃弥と呼ばれた青年の声に反応した比紗が玄関へと駆けて行った。

「空也、今の声って」

「……あぁ、うん、后の予想は当たってる。そういえば、久しぶりに顔見せに来るって言ってかも」

 自身らの母のテンションの上がり具合に、双子は顔を見合わせ溜息をつく。
 空也は「なんで今来るかな……」と苛立ち気味に、后は「またイケメンが増えた……」と虚ろに呟いた。

「あっ、比紗さん。お久しぶりです。いつも通り綺麗ですね」

「もうっ、瑠璃弥くんったら口が上手いわぁ。それに相変わらずかっこええし……くーちゃんに用事やんな? 遠慮せずに上がってやぁ」

「はい。お邪魔します――よぉ、空也」

 比紗に促され家に上がった瑠璃弥は、開いてあった扉から顔を覗かせた。
 闇を思わせる漆黒の黒い髪を外にはねさせ、どこかホストのような風体をした青年はそこにはいた。

「やぁ瑠璃弥、さっきぶり」

 ニヤリと笑う瑠璃弥に、空也はどこか疲れたように笑い返す。
 小さく、お邪魔しますと呟いた青年は居間へと足を踏み入れ、后と空也の前に座った。

「よっ、后。久しぶり」

「あぁ、久しぶり。瑠璃弥」

 后と瑠璃弥は馴れたように挨拶を交わした。
 けれど、それをよく思わないのが弟と家庭教師だ。

「后兄さん、誰、この人?」

「后くん、誰なのか紹介してくれませんか?」

 空也の時と同じように二人は――もちろん、式神と瑞宮も――怪訝な目つきで瑠璃弥も見る。
 ただ、さっきと違うのはその視線の中に甘雨と瑞宮だけでなく、御門のモノも入っているということだ。

「后、空也、“彼”は誰だ?」

 世界の全てを掌握するだけの力を持っている王ですら把握していない人物――『瑠璃弥』。その正体が何であるかを見極めようと、御門はすっと目を細める。
 その視線の強さに空也が口を開こうとする――が、


「――――失礼します、わが皇子」
「わが皇子、ラビューン☆ 今日も俺、参上!! みたいな☆」

 
 いるはずのない、人気芸能人の登場で再び閉じられた。

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