「快適〜!」

 私は思いっきり足を伸ばして、クーラーのきいた部屋でくつろぐ。机をはさんで向かい側にいる人物からは、呆れが混じったため息。

「あのさあ」

 不機嫌そうな声。「ん?」とわざとらしく首を傾げる。

「なんで、俺の部屋に来るの」

 彼の綺麗な声が、そんな言葉を紡ぐ。その声の主である精市こそが、この部屋の主である。

「なんで、って。私のお母さんから聞いてない? うちのクーラー壊れたの」
「……聞いてるよ、災難だったね」
「本当だよ! まったくさあ、夏本番ってときにクーラー壊れるなんて、災難すぎるよ!」
「それは分かるけど。リビングにでもいとけばいいだろ」

 精市の冷たい発言に、私は「え〜っ」と声を上げる。

「何よ、冷たいなあ。私と精市の仲でしょ?」
「ただの腐れ縁。リビングの方がクーラーきいてるし、そっちの方がいいって」
「もー、精市冷たい! どうしてそういうこと言うかなあ」
「部屋にお前がいたら、ゆっくりできないだろ」
「どうぞゆっくりして? 私のことは気にしないでいいからさ」
「気にしないでって言っても、「構って構って〜!」ってうるさくなるくせに」

 はあ、と今度は諦めたようなため息。そんなにため息つくと、幸せ逃げるぞ、って。精市のことを思って言ってあげたのに、精市は「誰のせいだよ」と、私をじとーっ、と見つめた。

「誰のせいかなあ」
「……もういいよ。俺、今から勉強するけど、邪魔しないでよ」

 また、ため息一つ。精市はこの数分で、幸せが三つも逃げちゃった。まあ、いいか。なんだかんだ言いながら、精市は私を受け入れてくれたようだし。
 いつもそうだ。文句を言いつつ、結局折れるのは精市。優しさ、だと信じたい。だって私は、そんな精市のことが好きだからね。