(アップルパイができるまで) ※甘 ※名前変換少なめ 熱で溶けたお砂糖を纏ったりんごは、鍋に入れたときよりも心なしか小さくなった気がした。 まな板の横に置いたスマートフォンのディスプレイに映るレシピを見て、ブランデーを小さじ2とシナモン少々をお鍋の中に入れた。 お砂糖とりんご。 更にそこにシナモンが混ざって香りだした匂いに思わず頬が緩む。 初めてにしてはなかなかの手際ではないだろうか。 「なにドヤ顔きめてんだよ。きめぇ」 「きめぇとは失礼だな。分けてやらんぞ!」 「いらねーよ。どうせ焦がすに決まってる」 現在、親は外出中。 「パパと久しぶりにデートしてくるから帰りは遅くなるね(はぁと)」 昼の少し前に起きてリビングに置いてあった母からの書置きはとても若々しかった。 いや、いいけどさ。 こうして、一人ぼっちの日曜が確定したのだが…家を空けるのも面倒で、親戚から送られてきたりんごでアップルパイでも作ろうと、気に入って買ったエプロンまでつけてキッチンに立ったその時だった。 「さみぃ…」 「何しに来たのよ」 幼馴染で彼氏のローがやってきた。 来る前に連絡入れて、とか、いろいろ突っ込もうと思ったけど、ローの寒さで赤くなった鼻を見たら、 「とりあえず入んなよ」 って、今に至る。 (入れなきゃよかったかな…) キッチンのすぐ隣にあるリビングにいるローを見る。 ソファに横になってるみたいでこちらからは表情が見えない。 「…はぁ」 溜息を吐いて作業に戻る。 ーーそれからは酷く静かだった。 部屋にはことこととりんごを煮詰める音だけが響く。 お鍋の中に出たりんごの水分。 一緒に出た灰汁を取っていく。 いつの間にかりんごの色は薄い黄色になっていて、つやつやとしていた。 デリケートになったりんごが崩れてしまわないように、優しくへらで混ぜる。 砂糖水が少し焦げて甘い匂いを放つ。 火を止めて、ボウルに移して、粗熱を取る。 (パイシートはあと少しで解凍できるし、つやだし用の卵も用意済み…) 作業が止まってしまった。 少し休むか…。 そう考えながら、ふと思い出す。 「そうだった…」 ローが寝てたんだった。 (ーー人様の家でよく寝れるな…) とりあえず、私だってソファで休みたい。 「ロー…」 起こそうとして身をかがめた時だった。 突然、強い力に体を手前に引っ張られ、勢いよく寝ているローにダイブした。 「やっと来たな」 「びっくりするからやめてくれません?」 案の定、ローの仕業であって。 「寝てなかったの?」 「寝てた。暇すぎたんでな」 「なんだ、拗ねてんの?ロー」 「うるせーよ」 横になるローに重なるようになった私の体勢。 急接近に体が火照る。 火元にいた時よりあたたかい。 「変に悪態ついてたのも構ってほしかったからかー」 あからさまにからかうように言う。 俺様で捻くれてるけど、こういう可愛い一面を見るのはたまらなく好きだ。 でも、あんまり調子に乗ると、 「調子乗ってるとここで犯すぞ」 「スミマセンデシタ」 こうなるから怖い。 ごりって私の股んとこ膝当ててきた。 本気だ……。 「ったく。なまえ、こっち向け」 「なに、」 急に声色が優しくなったもんだから顔を上げれば、不意にキスをされた。 触れるだけで、わざとらしくリップ音なんかたてて。 …恥ずかしい。 「ばか…」 「可愛くねぇな、お前は」 口では酷いこと言うのに、してくることは優しくて甘ったるいことばかり。 今みたいに、優しく笑うことができるのを知ってるのは私だけだといいなと思う。 「甘ったるい匂いさせて。本当に食っちまうぞ?」 「アップルパイ作るの手伝ってくれたら考えなくもないよ」 「条件付きかよ」 「ひどいっ。ローは私の体が目当てなのネ!(棒)」 「………」 「やめて。そんな目しないで…」 「……ほら、退け。作るんだろ?」 「え、ほんとに?」 「なんだよ」 「あ、いや…てか、食べないって言ってなかった?」 「俺が手伝ってやるんだから焦がすはずがないだろ」 「あー、なーるほどー」 ローが上体を起こすから、私がローの太ももを跨いで向き合って座るようになる。 「ローって素直じゃないよね」 意地悪く笑う。 「なまえの方こそ、もう少し素直になれよ」 同じように、彼も、笑う。 お互い笑って、見つめあって、どちらともなくキスをする。 こんなに甘ったるいことをさせるのは、部屋に充満するシナモンと、お砂糖と、りんごの匂いのせい。 【きっと、そうに違いないのだ】 (ローがキッチンに立ってるwww) (笑ってんじゃねぇよ。今すぐ犯すぞ) (スミマセンデシタァ!) リハビリのためにとローを書いたらなんだかキャラが迷子に(笑) ことあるごとになまえさまを犯そうとして…まったくもう!← スミマセンデシタァ!! アップルパイ美味!! |