初-検
「三成、それでは私がそれを検めよう」
白い陣羽織の男性が私の横に転がった傘を拾い上げた。
「ふむ、これが傘だというのか。ふむ…、面妖な」
白い人はしげしげと傘を見つめる。
「か、兼続殿、危ないのでは…」
赤い甲冑の人が心配そうに傘を手にした男の手を覗き込む。
「ふむ、この柄(え)なども妙につるつるとしているし…。ん…、よっとっ!」
白い人は柄の上部についた金具に気が付いたのか、かちりと微かに音をたてて傘を開いた。ジャンプ傘であったので、勢いよく青い花柄の布が大きく広がる。
「なにっ、やはり武器か!?」
毛が身構える。私はじんじん痛む手をさすりながらぼんやりとその滑稽なやりとりを見つめる。
「これは…何と…」
白い人はいきなり開いた傘に驚いたように息を呑む。
「何とも不思議だが…、やはり傘だな」
「独りでに開く傘ですか…!?」
赤いのが興奮気味に囁く。
「三成、これは一体何で出来ているかわからぬが、確かに傘だぞ」
「傘だと、女、何故傘など手にしていた」
毛はまた私を射るように睨みつけた。
「あの…、護身用になるかなって…」
私が答えると、一瞬の間が空いた後に、白い人が大声を上げて笑い出した。
場違いなほど朗らかな声が部屋中に響き渡っている。
「ははははは!傘で我々から身を守る気だったとは!」
白い人はおかしくて堪らないといった体で話しつづける。
「三成、この者が特に武芸に通じているとも思えない。ただの娘であろう」
「だが、傘で戦う女も居るだろう」
三成、と呼ばれた毛をかぶった人は不服そうに答える。
「阿国殿のことか。だが、これは確かに面妖な傘ではあるが…、何か仕込めるものではない様だぞ」
そういって白い人は傘を閉じ片手に持つと、もう一方の手にぽんぽんと軽く叩きつけた。
「それでは、もう一度私が検めましょう!」
今度は赤い人が目を輝かせながら進み出で、白い人から傘を受け取ると勢いよく傘を開き、傘の内側を見たり外側の生地の表面をなぞってみたり、くるくると柄を回してみたりと忙しなく動いた。
「三成殿!やはり兼続殿の仰るとおり危険なものではないようです!」
傘を閉じながらそういうと赤い人は満面の笑みを浮かべ、何も無いと言うことを示すためか、思い切りよく傘をへし折った。
「あっ」
私は突然の破壊行為に咄嗟に大きな声を上げてしまった。怪しい三人組の視線が一気に私に集中する。
勝手に口から本心がこぼれるのを他人事のように聞いた。
「お気に入りの傘だったのに…」
前へ 次へ
戻る