初-朝
一人で暮らすには広すぎる一軒家で目が覚める寂しい朝。
「ああ、そっか、今日から一人なんだったっけ…」
ベッドの中でカーテンの隙間から微かにこぼれ光にぼんやりと目をやりながら、今自分が置かれた状況を再確認する。
私は元々この二階建ての一軒家で両親と中学生になる弟と4人で暮らしていたのだった。ところが、父が急に海外へ転勤することとなり、両親は弟を連れて日本を発つこととなった。私はというと、すでに20代も半ばとなり、それなりに社会人としての日々をこなしているため、留守番係をかねてこの家に留まることとなった。生まれてこの方20ウン年経つが、一人暮らしなどしたことがないと言うのにいきなりこの一人には広すぎる一軒家でしばらく一人きりで暮らさなくてはいけないのかと思うと、朝からなんだか寂しさが胸にこみ上げてくる。
けれど出勤へのカウントダウンは今この瞬間にも行われている。センチメンタルなムードに浸っている余裕などありようがない。私は自分に喝を入れるように思い切り起き上がり勢いよくカーテンを開け差し込む光に少しだけ勇気を貰い朝の支度を始めた。
いつもならば一緒に朝の準備をする家族の声でにぎやかな家も今日はテレビと自分のわずかな生活音しか響かない。
(なんか…やっぱさみしいな…)
ため息を吐きながら、私は母が昨日家を出る前に渡してくれたお守りに目をやった。お守りはいつでも目につくようにとリビングの壁にかけておくことにした。
「あれ…、あのお守り、あんな色だったっけ?」
昨日もらった時は真赤に見えたお守りがわずかに金色がかっているように見えた。
「気のせいかな…って、うわ、もうこんな時間…!行かなきゃ!」
急いで荷物を纏めて、部屋を後にするまえにお守りをまたちらりと見た。やはり、昨日とは少し色が違うように見える気がした。
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