初-お茶2
「なんだ、これは」
三成殿が凄い形相で茶碗をにらむ。
「お茶…ですけど」
「これが、茶だというのか!」
私の返答にまた怒声で返す三成殿。
一体何が悪かったのだろうと、困惑しながら思いを巡らせていると幸村殿までがおもむろに「たしかに…、不思議な茶ですね…」といった。
幸村殿にまで言われるとは思わず動揺を覚えてしまった。
「確かに少々水っぽいが、茶のよい香りがするぞ」
兼続殿が湯飲みを遠慮深げに嗅いでいる。その様子を見ていた三成殿は憮然とした様子で腕を組み忌々しげに言った。
「確かに茶の匂いはする…。だが、女!貴様きちんと点てたのか!?」
よほど気に障ったのか、再び女と貴様よばわりになった。
「え、たてる?」
何を立てると言うのか、茶筒のことであろうか。
その時、はっと思い出した。
「あ、これ抹茶じゃないです」
「抹茶ではない…?」
三成殿がいぶかしげに言う。
「煎茶です」
「せんちゃ?知らんな」
三成殿が知らないのも無理は無い。煎茶は江戸時代中期からの飲み物であるため、室町の人間が知る由もないのだ。
「茶せんで点てるお茶よりあっさりしていますが、おいしいですよ」
私がめげずに薦めても三成殿はへそを曲げたままだ。
「このようなもの…、飲めるわけが無い」
また、重苦しい沈黙が食卓に流れた。私が内心おろおろとしていると、幸村殿が勢いよく湯のみを持ち上げ、ごくりごくりと喉を鳴らしながらお茶を飲み干した。
「おお!これはさっぱりとしていて、美味です」
幸村殿が晴れやかな顔でそういうと、今度は兼続どのが「せっかく萩が用意した茶なのだ。飲まなければ不義だぞ!」と湯飲みをあおった。
こんなドラマチックなティータイムは生まれてはじめだと思いながら思わず目を見開いてしまった。
ここまで来て、三成殿もしぶしぶと煎茶を口に含んだ。
ややあって、「薄い」とつぶやいた。
「三成も強情だな」と兼続殿があきれたように言った。
「だが、悪くない…」
そういうと三成殿は静かに煎茶を飲み干した。
そのおかげでまた、場の雰囲気がやわらいだ。元々三成殿のせいで悪くなったのだが。
「お茶請けも用意しますから、もう一杯いかがですか」
和やかになった空気の中で三人に声をかけると、「おお!かたじけない!」と幸村殿が瞳を輝かせながら笑顔を浮かべた。
しかし、キッチンの戸棚を漁っても適当な和風のお菓子が見つからなかった。
「まあ、しょうがないか」と、とりあえず貰い物のチョコレートの箱を三人が待つ食卓テーブルに出した。
「おお、これはなんだ!」
「不思議な紙で包まれていますね」
「いちいち騒ぐな」
三人三様の反応を示しながらチョコレートの銀紙が剥がされて行く。
まさか、またチョコレートのせいで一悶着あるとはその時の私には思いも寄らなかった。
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