初-衣
「ところで、このかたびらはどう着るのだ?」
一通り盛り上がった後、三成殿が尋ねてきた。
「あー…、そうですねー…」
きっと、私が今ここで洋服の着方の実演をすればすんなり行くのだろうが、さすがにそれは憚られた。私はとりあえず適当なTシャツを拾い上げ広げて見せた。
「えーと、この衣には、いくつか穴がありますね?」
「そうだな。あわせがないのだな」
兼続殿は律儀にうなずいてくれた。
「この穴に手や頭を通して着るんです」
「なるほど!そのまま頭からかぶるのですね!」
さすがに、凡人とは違うためか、私の曖昧な説明にも関わらず彼らはものの理解がとても早く、ズボンの履き方も「少し変わっていますが、袴の要領ですね!」と独自の方法で理解してくれた。
一応チャックやボタンの説明も先ほどのTシャツのような方法で説明をし、後は武将たちに任せることにした。
リビングで待っていると、しばらくして着替え終わった武将たちがゾロゾロと帰って来た。
一通りに着替えは完了したが、やはり急に何もかも新しく見慣れないものを身に着けたためか、とても居心地が悪そうだった。
「む、少し…窮屈だな…」
兼続殿が着たTシャツには当然ながら着物のようなあわせはなく、前がぴったりと一枚の布で覆われているためどこか圧迫感を感じるようだった。
「甲冑よりは動き安かろう」
どっからどう見ても厭世的な現代っ子になったロングTシャツ姿の三成殿が言う。
「それはそうだ。小袖と比べての話だぞ。なんだか、布が纏わりつく感じがするな…」
言われてみれば、小袖や袴なんかは、そこまでぴったり肌にくっつかないかも知れない。帯などは、別かもしれないが。
「一日の辛抱です。せっかく、萩殿が用意してくださったのですから」
幸村殿がフォローを入れる。
「あ、でも、また出かけるまえに着ていただければよいので…、着替えなおしていただいても結構ですよ」
気遣うつもりでそういうと、兼続殿は「いや!それでは己に屈することになる!愛と義をもって、私は乗り越えるぞ!」と叫んだ。
全く意味がわからなかったが、兼続殿の気合というか気概というか決意は理解できるように思った。
「はあ、まあ、無理はなさらないでくださいね」
「それで、外に出るのに必要なものはこれだけか?」
三成殿が訪ねてきた。
「はい。神社に行くだけですから」
「そうか…、ならばあとは待つだけだな…」
その言葉を聞いて、私はお風呂はどうしようとか、寝床はどうしよう、とか、少しお茶でも飲んだ方がいいか、などといろいろな考えを頭に巡らした。そういえば、もう手はあまり痛んでいない。
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