初-名乗り
 
「萩です。私は牡丹餅萩と言います」

私がそういうと一同は、驚いた表情を浮かべた。かと思うと、白い人などは実に爽やかな笑顔を浮かべながら「これはしたり!屋敷の主に先に名乗らせてしまうとは、不覚であったな!私は直江山城守兼続だ!」と言って自己紹介をしてくれた。

「私も、失礼いたしました。私は真田左衛門佐幸村と申す」と、赤い人もそれにならう。

私が耳にする名前に目を白黒させていると、他の二人が残った毛に名乗るようせっついていた。

「三成!」
「三成殿!」

仲間に迫られて観念したのか毛の人は憮然と答えた。

「石田…三成だ」

有名な戦国武将の名前が次々と出てくる。もしかしたら、歴史好きの妄想癖の三人組なのではないだろうか、という現実的な考えが不可思議な現象に納得しかけていた心に湧き上がってきた。

「あのう、皆さんの名前…、本当に本当に、本当の名前なんですよね?」
「当たり前だ、萩。ここに来てどうして身分を偽る必要がある」

直江兼続はがっと、握りしめた拳を暑苦しく自分の顔の前に勢いよく掲げた。

私はそれをみると、溜まった疲れがどっと湧き上がるのを感じ、それ以上突っかかる気も失せ、素直に彼らが有名な戦国時代の武将だと信じることにした。それに妄想癖でもなんでも、彼らはここに居座る気もなさそうなのだから、付き合っておけばよい。

「それも、そうですね…。それでは、えっと、とりあえず」

よろしくと言って私は少し言葉につまった。彼らを何と呼べばよいのか。

なんとなく「さん」付けは武将を呼ぶのにそぐわないと思ったし、それに今直江兼続という人が私を下の名前で呼んだのだから、自分もそうした方がいいのだろうかなどと思いを巡らした。そういえば先ほど真田幸村と名乗った人が他の二人を「殿」付けでよんでいたことを思い出した。

「よろしくおねがいします。兼続殿、幸村殿、み、三成殿」

どうしても石田三成だけは、先ほどからのツンツンとした態度から気安く名前で呼ぶ気になれず、少しどもってしまった。

とはいえ、一通り自己紹介をおえると、お互いに肩の荷が落ちたような気がして空気がほっと緩んだ。

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