短編小説 | ナノ
好きな人に素直に話かけることすらできひんあたしは、こうやって彼の気をひこうとすることくらいしかできんのやと思う。
掴みどころも愛想もないアイツに容易に話かけるのは難易度MAXやし、事務的なことでしか話せん私は某スピードスターの先輩並みにヘタレなんかもしれん。せやから昨日の席替えで初めて前後ろになった時は死ぬほど嬉しかった。やから、とうとう決行したんや、この作戦を。











「なん、」

「え、」


それは予想外にも早かった。
教室に入っていつも通りを装いながら自分の席ついたら、後ろの席になりたての財前から髪をぐいっと引っ張られた。え、なんやのこれ。こういう展開は予想してなくて。反射的にいたいねん、なんて大袈裟に言って振り向いたら、きょとんとした顔の財前がそこにいた。


「ピアス、開けたん?」


ポカンと開いたままの口を紡ぐように財前は言う。いつもクールで無愛想な財前に似つかわしくないかわいげのある表情に、思わずあたしは見とれてしまいそうやったけど、真横でキラキラ光るピアス達に今日も目を奪われた。


「じ、自分やってピアスあけとるくせに、なんやその珍しそうなもんをみる顔は」


久々に財前に対して放った言葉は今日もかわいらしくない。


「や、似合うとるな思て」

「ひあっ」



やっと髪を放したかと思うたら今度は耳に触れてそんなこと言うてきたもんやから、やらしい声だしてもうた。
は、もうわけわからん。あたし今財前からさわられとるん…?ちゅうか今似合うとる言われたん?うち…!耳に伝わるこそばゆい感覚と、財前の顔がさらに近くなったせいか、体が一気に熱くなる。


「な、」

「へー、これ確か学校帰りの雑貨屋で最近入荷したやつとちゃう?」

「え、あ、そこで、買ってん」


内心パニクっとるあたしは、なんとかかんとかドキドキを抑え込んでそう返す。
い、いきなりこの反応はあかん、やろ。
目をあわすことすら容易ではないあたしにとって、彼の行動は刺激が強すぎた。よし、あと三秒もたたんうちに逃げ出そう。



「おーい、財前」



しかしそんな私に救世主があらわれる。


「…なんすか、白石部長」


助かった…。
確かこの人はテニス部の部長や。
なんやめっちゃ爽やかな笑顔でこっちに近づいてくる。その瞬間、財前の手は耳から離れ、顔はさっと部長らしき人の方へと向けられた。


「同じクラスの藤堂さんから、差し入れや。渡しとってっちゅうて頼まれとってん」

「いりません」



チラ、と、白石先輩が私を見た気がした。くるくると包帯が巻いてある方の手で、可愛らしい紙袋を財前に渡すと、迷惑そうに押しかえされとった。…ちゅうか、やっぱ財前はモテるんやな。。。好きになった頃からそれは知っとったけど、間近で改めて知るのはいつもよりつらい。
そう思い一人うつむいとったら。



「名字さん、やったっけ?きれいな髪しとるなぁ」

「え、なんで私の名前…」



そういいかけた時、白石先輩は私の髪に触れた。そして何を思ったのか、うなじに顔をよせてtmag:jda@gpd.kふじこjma


「めっちゃええ匂いやなあ。」


そう、呟いたので、おもいっきり白石先輩との距離を離した。


「なにやっとるんすか部長」


そしたら財前がとっさに白石先輩の右手をペシッと払いのけ、表情はいつもより度が増してキツくなっとった。否、にらんどった、という言葉がぴったり来るだろう。ちゅうか白石先輩色気はんぱないやろ…



「スマンなぁ、びっくりさせてもうたやろ?堪忍な」

包帯巻いとる方の手で私の頭をくしゃくしゃ撫でる。…この人、絶対女の子の扱いなれとるやろ。こういう人よりあたしは、やっぱり財前がいいな、と思うあたしはどうしようもなく後ろの席の彼が好きだ。
それにしても、この先輩意味がわからん。とりあえず触られるのが嫌だったので、やめてと言おうとした瞬間やった。



「あの…」

「こいつ俺のなんで触らんといてください」





は…?
ちょっと今なんといいましたか。
ふと財前をみると、相変わらず白石先輩を睨んだまま包帯の巻いた腕をぐっと強く握りしめる彼。


「なんや財前、機嫌悪いなぁ」


白石先輩はそういい残すと紙袋を置いて教室を出ていった。
ちゅうかそれはどうでもよくて、ほんま財前、いまなんて…?






ピアス、嫉妬につき要注意。



「え、ざいぜん、、今の・・・」

「あの人変態やからかかわらん方がええで」


(財前の耳が赤いのは気のせいじゃないよね)






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