萩野×蒼大(萩野の嫉妬で甘々)
さかな様リク「萩野×蒼太」
***
―――12月。久しぶりに戻って来た地元は、はやくも粉雪が風景のあいまを舞っている。
「寒……っ」
ぬくぬくと車内で温まっていた両脚が、数時間ぶりのアスファルトを踏みしめると同時に、一気に寒気に襲われた。
ようやく長期支援期間がおわり、萩野さんの待つ駅前支店に戻れることになったこの日。
俺は支援先で仲良くなった滝本主任の愛車に乗せられ、帰省することになっていた。
大丈夫だっていうのに「明日は俺に送らせろよ」と言ってきかなかったのだ。
「で、もう来てんの?蒼太の彼氏」
待ち合わせしてある駅の中央に車をとめて、含み笑いした主任が車内から腕と顔だけだして辺りを見てる。
この人、ぜったい萩野さんが目的でここまで来たに違いない。
「あの、見せ物じゃないんですけど。俺の彼氏」
「いーじゃん。萩野って、あの本社出身のエリート店長だろ?」
とか、余計に口のはしをニタリとあげて言ってくる。やっぱり興味本位かこのやろう。
まあ、若干20代で新規参入店舗の指揮官に抜擢された萩野さんは、俺が言うのもなんだけど、系列店舗の関係者で知らない者はいないだろうと思う。
だからって、俺と萩野さんの半年ぶりの再会に水を差さないでほしい。
たまの休みくらい、家族サービスでもしてろよと内心毒づいていたときだ。
駅の構内から、辺りを見回しながら萩野さんが出て来るのが見えた。
紺色のフード付きのピーコートのボタンまできっちりしめて、寒そうにポケットに両手を入れてる。
仕事の途中だったのか、コートの下は、グレーのスーツ姿だ。
こげ茶色の髪の毛は耳の上あたりで綺麗に散髪され、ストレートに毛先だけが空気を纏ってふわりと跳ねている。相変わらず、さわやかで恰好いい。
「あ……」
自分の彼氏のくせに、おもわず見惚れてしまっていた俺は、なかなか声がだせずにいた。
そのうち、キョロキョロと左右を見回していた顔が、俺と滝本主任をとらえる。
ばちっと目があったと思った瞬間。
萩野さんは、予想以上の満面の笑みを浮かべて、考える暇もあたえないほど速足でこっちに向かってきた。
「ああ、どうも。出張の際はお世話になりました。滝本主任ですよね、お疲れ様です。俺の蒼太をわざわざ送り届けてくださったようで、ありがとうございました」
一片の隙も与えない極上の微笑みだ。
心地よく細められた瞳といい、計算されつくした口角のあがった口元といい、これぞ営業スマイル。
「ついでに君の家まで送ろうか?」
と、やたらと俺の方をニヤついた顔で見てくる滝本主任が、余計に首を突っ込もうとする。
「いえ、ここからは俺が連れて帰りますんで。俺の蒼太なんでお構いなく」
萩野さんは俊敏な動きですぐさま俺のスーツケースとコートの片腕をとり、挨拶もそこそこに駅の外へ歩き出していった。
***
「ハア……」
荷物を持ってない方の手をつなぎ直して、駅の近くにあるアパートに向かう途中。
それまで不審なくらい静かだった萩野さんが、とつぜん溜まりかねたように息をついた。
「どうしたんですか?」
「……」
しかも、様子を伺って見上げた俺の顔を、訝しげに睨みつけてくる。
「別に。早く蒼太を抱きしめたいなぁと思っただけ」
「え」
抱きしめる……だけだろうか。
色々とこの後のことを想像してしまった俺を見て、コツンと頭をつつく。
「早く帰って癒してね。嫉妬に怒り狂った俺のこの気持ちを、蒼太の体で温めてね。なんなら、ここでチュウしちゃう?」
「えっ!?」
「冗談だよ」
なんだ……とホッとした束の間。繋いでいた手を引き寄せられ、荷物と俺の体ごと、萩野さんの懐になだれ込んだ。
びっくりして顔を上げると、うっすら瞼をとじかけた線のうすい二重が、目尻だけ引き上げて俺を見つめてる。
「あ……」
再び声を失った俺の唇を、半年ぶりに萩野さんがそっとふさいだ。
ヒラリと隙間にはいった粉雪がまざって、ほんのり冷たい。
「俺の……」
言いかけた萩野さんの声は、耳をすませばもうすぐ、寒空のなかに消えていた。
あとがき
「初愛SS(萩野×蒼太)」にお付き合い、ありがとうございました。
そしてリクをくださったさかなさま、本当にありがとうございました(^^)
萩野と蒼太の久々の甘々(萩野の嫉妬プラス)といったリク内容でしたが、ちゃんと書けているだろうか…。
何気なく書いた初愛ですが、思った以上に呼んでいただけ、作者も大変うれしく思います。
自分の作品ではあまりみない純愛シリーズですが、だからこそこのシリーズは感情描写を入れることがおおく、個人的にとても楽しんで書くことができました。
リクをくださったさかな様にもよろこんでいただければいいなと思いつつ。
ありがとうございました。
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