「翼〜」

「……………」


現在、俺は翼の部屋にいる。

どうしてここにいるか、ここで何をやっているかなんてのは大抵いつもとは変わらないので言わないで置こう。

が、今、俺はこれまでにない状況に置かれている。

それは何かと言うと………


「翼、なんか言えよ」

「……………」



さっきから翼が一言も喋らない。



「何聞いてんの」

「…………」

「なぁ」

「…………」

「おーい」

「…………」


ホント一言もなし。

いつもなら俺が入ってくる時点で「猫帰れ」など、「変態落ちろ」など、ひどい時には「散れ」の一言で心良く迎え入れてくれるはずだが、今回はそれもなし。さっきから無視攻撃。俺と目も合わせない。さっきから無視無視無視。手元にある某ミュージックプレイヤーに夢中だ。



「翼」

「………」

「翼翼」

「……」

「翼翼翼」

「…」

「翼翼翼翼」

「」


緊急事態。とうとうセリフの三点リーダーまで無くなりやがった。もう興味ないのライン超えてるだろ。どっかいけのレベルでもないだろ。もう私の前から消えろのレベルだろ。聞こえる聞こえないにしても。



「おい」

「……」

「聞こえてんのか」

「………」

「ヘッドフォン取れ」

「………」


まぁ聞こえてないなら当たり前の反応だが。反応っていうか反応がないんだが。つかもう我慢できねぇ。

俺は痺れを切らして翼に近づきヘッドフォンを無理やり外してみた。よく見れば新しい物だ。まぁ新しいからはまっていたんだろうか。



「ちょっと、何すんの」


翼は特に驚く事なく俺からヘッドフォンを奪うと何も無かったように音楽を聴き始めていた。


「………」



え?これだけ?もっと文句とかねぇのかよ。いや、文句言われたいとかではないんだが反応が薄いならそれで虚しい。

つか俺が勝手に入ってきてる事にはコメントなしかよ。俺が入ってきてずっと話掛けていたことに気が付いていたのだろうか。それとも文句を言う暇などないくらいに夢中なのか。



「翼」

「………」

「あ、Gだ」

「………」


試しにコイツが大の苦手とする油ギッシュな虫を口に出してみた。が、反応はなし。どうやら本当に聞こえていないようだ。聞こえてたら今頃コイツは発狂していたからな。


「翼」

「………」

「つまんねぇ」

「………」

「お前に無視されるとつまんねぇ」

「………」

「なぁ」

「………」

「つまんねぇし、つらい」

「………」

「翼ー」

「………」


どうせ聞こえてないんだから色々言ってみることにする。こんな機会はない。まぁ、虚しいんだがこの際どうでもいい。せっかくの機会だ。びしっといってやろう。


「翼鈍感」

「……」

「天然」

「……」

「アホ」

「……」

「ドジ」

「……」

「毒舌」

「……」

「変人」

「……」

「無用心」

「……」

「だから変な男に絡まれたりするし」

「……」

「そのたび俺が心配する羽目になるし」

「……」

「天然だから男の下心とか全然分かってないし」

「……」

「叱ると子供みたいに反抗してくるし」

「……」

「その度お父さんかよとか言われるし」

「……」

「俺はお父さんってポジションなんかいらないし」

「……」

「お前は俺が心配してることさえ気づいてないし。」

「……」


色々いってみたがやっぱ聞こえてない。まぁ分かりきっていたことだが虚しい。これ聞こえてたらいいのになと思ってる俺はキャラが崩壊しているのだろうか。つか俺のキャラってなんだ。つかなんでこんなに疲れてるんだ。喋りすぎて疲れたんだが。



「………帰る」

「……………」


変な空気に耐えられなくなった。聞こえても無いこいつに帰る事を告げる。無言。まぁそれは当たり前だが。これは聞こえてる聞こえてないにしても同じの事だ。




「じゃーな翼」

一応声をかけ、窓から飛び降りた。

明日にはそのヘッドフォンに飽きている事を願うばかりだ。

































「…聞こえてたんだけど…変態バカ」








何この甘い雰囲気。だめじゃん。イクトじゃねーじゃん。 

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