「か、可愛い....」


翼はそう呟き、道端に捨ててあった猫を見つめた。
電信柱の直ぐ隣にダンボールインしている黒い捨て猫。何と言うベタな設定であろう。

普通ならここで不良な男子高校生が大雨の中、傘をさし普段は見れないその優しげな眼差しを子猫に向けているところでギャップ萌えーっとなるんだろうがなに故この小説は普通とはかけ離れた次元に置かれているためそんな事はありえないだろう。

現にこの捨て猫を学校の帰り道で見つけたのはヤンキー的な男子高校生ではなく、このモンキー的暴力女子高生だ。まぁ、こんな事を口に出したら殺されるか殺されるかどっちかだから言わないでおくが。



「ね、イクト。この子どう見ても捨て猫だよね?」


その問題の捨て猫とやらと一定の距離を保ちながらそう俺に聞く。まぁ、コイツがその猫に近寄らないのは猫アレルギーだからして仕方がないのだが.....



「翼?」

「何」

「なんか目がキラキラしているのは気のせいか」

「...気のせいだと思うよ」


絶対気のせいではないはず。今にも飛びつきそうなその姿勢のどこに説得力があるというのだろうか。触れたいのは分かるが。


「何でこの世には猫アレルギーと言うものが存在するのだろうか」

「知らん」

「何故私が猫アレルギーになってしまったんだろうか。」

「分からん」

「何でそこら辺の猫嫌いが猫アレルギーにならないんだろうか」

「さぁ」

「何でこの猫は…………こんなに可愛いんだァァァァ!」

「………解せぬ」


正直こうなった翼には付いていける気がしない。返す言葉ももう思いつかない。もう俺の脳には無理だ。フル活動させてみたけど無理だ。チャージがなくなってきた。

コイツと二人で帰れるのは嬉しいことだが、今はめんどくさい事山の如しだ。早く帰りてェ……。



「なぁ、どうしてなんだ!」

「何が」

「この捨て猫が……黒猫とはどういう事だ!」

「何がいけないんだ?」

「見ろ、この艶やかな黒髪!純黒!ビバブラック!」


そう言いながら俺の肩を揺するこいつ。心なしか嬉しく感じるのは気のせいだろうか。きっと気のせいなんだろうか。そう信じていいんだろうか。もし万一の可能性を考えてというのならば俺は普段コイツから、黒猫、と称される事が多いからだろうか。そうなんだろうか。



「お前も黒猫みたいだけど……」

「…………」

「お前とは大違いだな!」

「…………」

「似てるけどさー」

「……似てるけど…?」






「お前は可愛くない!」


前言撤回。やっぱ悪い気しかしねぇ。決して可愛いと言われて嬉しいわけではないが、なんなんだろうかこの敗北感。捨て猫に負ける俺って一体………。


そしてそんな傷心な言葉を笑顔で言えるお前って………。







まぁ、結局



笑顔に免じて許すんだけど。













なんだこれ。 

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