浅はかな欲望
生きているかそうでないか、俺は勿論後者であって。
目の前で笑う女子高生は、俺が眉間に皺を寄せる姿を面白がっていた。名前は凛子。彼女は凛子という。
「この部屋から出ないんだな」凛子は言った。
土曜日も学校がある弟と凛子たちは、なぜ登校せにゃならないと嘆くかのようにずっと肩を落としたまんま。セーラー服の襟は何処までも深く清らかな水底の色、そこに凛子の長い黒髪が垂れた。細くてあまりにも弱々しい蜘蛛の糸が降りて行く情景を思い浮かべる。するすると落ちて、少し揺れた。
「まあな」
俺がそう返した頃には、凛子は小窓に収まった空と月を見つめていた。
ここは俺の部屋だけど、くつろいでるのは凛子のほうだ。ベッドの上に座っている。ちなみに、俺は床で体育座り。凛子は動かない。色の混ざる空と薄く光る月とを眺めて、そこまで物思いに耽ることなんて出来るのだろうか。
かあさん!! と、弟の声が下から響いてきたのが分かった。どれだけやかましくいるつもりなんだ、あいつ。床に目を落とした時、自分が抱えた膝が視界に入る。
(俺、幽霊なのに。脚あるんだよな。つま先までちゃんと見えてる)
……と思ったら、すぐに消えた。周りの景色に溶け込むように、膝も腰も腕も何もかも…………不便な視界だ。こういうのはたまにある。
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