凛子の友人



 春が過ぎて、二年に上がって、私は今も度々こいつの家に通っている。
 弟感が抜けきれていない、青二才。あの人に言った言葉だ。

 この家の二階、階段をのぼってすぐそばの部屋にあの人は居た。秋頃だった。小さな町に流れる川で彷徨う、小さな熱帯魚、たったの一匹、誰に気付かれようか。……いや、気付かれるわけがなかった。それが私の目にとまったことで泣き出したあの人の「寂しい」という声を、今でもよく憶えている。
 あの人、というのは、世間が呼ぶ所詮幽霊というやつで、この家の人間だった。その弟と私が高校で同じクラスになって、その弟が私が欲しかったゲームを持っていることを知り、その弟の家に押しかけに行き、なんなく歓迎されなければ出会うことはなかっただろうから、今でも有難く思っている。ああ、弟に、ではなく、神様に。


「ちょお、麺あると思ったら無かったわ」

「買って来い」

「人んちでも人使い荒いのなー……!」


 西宮はそれでも断らない。優しいやつだ。一体誰に似たんだか。
 縁側を包む涼しい日陰、風鈴の音が心地いい。朝、水打ちしただろう地面は、もう干からびていた。後ろの居間はがらんどうで、人気はない。仏前がちょうど縁側のほうを向いている。写真の中にいるあの人の目は、どうしようもなく優しかった。

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