叱咤
久しぶりに外に出た。といっても家の庭だけど。人の体温どころか、気温さえもわからない。草木が揺れている。枯葉が舞っている。だからきっと肌寒い。
有るけども、有るけども。ここは、俺という存在を淘汰するものたちがいる世界。お前はいないんだよ、と、風が目の前で笑っているようで、虚しさが心を埋め尽くした。何もないという寂しさが。……矛盾だ。
「母さん、草むしりサボったろーっ!」
弟はすぐ目の前で、花壇に咲いた花を見ている。雑草はたしかに周りに生えていた。俺は弟のそばでしゃがみ、雑草を掴もうと試みたけど、微動だにしない雑草をこの手は貫通した。すぐに風が吹く。幽霊の目にすら風の実体は見えていないというのに、やはり俺の存在感は限りなく薄いらしい。
俺(が生前使っていた)の部屋は二階にあって、窓がちょうどこの庭に面している。母はそこから顔を出した。
「気のせいよおー」
(またそうやって白を切る)
文句や言い訳は言わないのにこういう逃げ方はいっちょまえにする母が懐かしくて俺は思わず笑ったが、横の弟はムッとするばかりだ。
そんなわけないのにな。母さんもわかってて言ってるのが、またムカーっとすんだよな。まあ、
「あれも愛嬌の一つだからなあ」
独り呟いた言葉が弟の声と被さって、嬉しく思う自分がいた。
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