「何をそうしかめっ面にさせる」「いや、なに。人の情けは、時にひどく痛く感じるのだと思ってな」「……情けじゃねえ。義務だ」
夕暮れ時だった。どうもこいつ、怪我をしているらしい。ともあれば見捨てりゃ祟られるだろう。そう思ったから、拾ってきた。物の怪を。だが看病したらしたで、逆に祟ってくる勢いで恨めしそうに唸り出した。本当に呆れる。妖怪様々はそんなにも、恩を仇で返す奴ばかりなのか。いや知らんが。あーあー。こいつの羽くそでけえんだよなあ。俺の部屋の面積奪いやがって。
「可愛くねえこといいやがって、痛」「傷口えぐってしまおうか」「人ごときが。喧嘩売らないほうがいいぞ」「黙れ鳩」「天狗だ」「くるっぽ」「馬鹿にしてんのか」
こいつ。こんなこと言っといて涙ぐんでる。本当に情にもろいやつだ。
……ま。人と接する機会が、めっきり減ったせいでもあるだろう。人の温かさは心に響くからな。それを知ってるから、痛く感じてんだな。
「なに泣いてんだ、人」
……だめだ。俺もすっかり、情にもろくなってしまったらしい。
感じること
「うるせえ、染みてんだ」
天狗の羽根が落ちていた。優しい稲穂の匂いがして、俺はまた涙を流した。
-END-
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