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▼ 油断大敵



二日酔いが無かったのは良かったものの、あいつの酒の強さが異常だと再認識させられた。とにかくピッチが速い。水みてぇに飲みやがる。
本人的には旨いと言いながら味わってるんだろうがな。しかも注いでくれんのは嬉しいけどよ、速ェんだよな。減ったら直ぐ注いできやがるからこっちも意地になって飲んでしまう。


照れねぇ上に酔いもしねぇ。



今、ソファーに座るあいつの足元には神楽が床に座り込み、名前の太腿に顎を乗っけて新八に借りたのであろうCDを2人でイヤホンを分けあい聴いている。


仲が良いのは知っているし、神楽はあいつに甘えてる所がある。楽しそうに話をする姿は姉妹のような親子のような。あいつは脚に頭を倒した神楽の頭を撫でながら歌詞カードを眺めてる。


遊びに行って来ると離れた神楽が玄関に向かった後も、1人ソファーで曲を聴いている足元に近付き今度は俺が座り込んだ。


「なに?」

「新八に借りたのか?」

「そう、アイドルなんだって。歌詞面白いよね。」


面白いか?


1度俺に目線を寄越したが再び歌詞カードに目を向けた。
軽く脚に触れてその間に自分の身体を入れ腰に腕を回して引き寄せるとまた目線が戻ってくる。


「何してるの?」

「さっき神楽にやってたから」

「え?神楽ちゃんこんな事してないよね?」


大した抵抗はされないからそのまま抱き寄せて目の前にある腹に頬を埋めるように抱き付いたら怒られた。


「お腹は止めて。」

「なんで? つか薄いよな、俺もうちょい欲しいんだけど。」

「えっ、銀さん優しい。頭撫でてあげる。」


そう言いながら急に機嫌が良くなり頭を撫で始めた。両手で頭を洗うように、わしゃわしゃと効果音が付きそうなくらいな。


「もっと丁寧に撫でてくんない?」

「喜びを込めているの」


何だそれ。

ボサボサになったであろう俺の髪を今度は指を櫛にして撫でるように動き始めた。
腕を回したまま太腿に頬を乗せると頭に触れていた指に力が入り、程好く頭皮を刺激する。
これスゲー気持ちいい。眠くなる。



「うわ何してるんですか。」

「何かくっ付いてきたの」

「何かってなんだよ。ゴミじゃねんだから。」

「ゴミ!ふわふわの……ホコリ?」

「ホコリ言うな」



新八の登場により頭皮マッサージは終了した。


「新八くん、CDありがとう!面白かった!」

「良かったです!また違うの持ってきますね。」

「ありがとう!」

「じゃあ僕集まりあるんで出掛けます、後大丈夫ですか?」

「うん、行ってらっしゃい隊長。」


笑いながら敬礼するこいつに同じく新八も笑って敬礼して出掛けた。新八も結構懐いてるよな、こいつ人に好かれるのが上手いのか。


「そろそろ掃除再開しようかな、退いて銀さん。」

「んー、」

「いや退いてよ。」


呆れた声を出しながらも頭に置いた手はそのままだ。


「なぁ、触ってくんね?」

「触ってるよ?」

「頭じゃなくて」

「え?どこ?」



顔を上げて下から見上げると、きょとん とした顔が目に入った。

下から見上げるの初めてだな

じっと無言で訴えると手が頭から離れ、両手が頬に当てられた。



「これでいい?」

「もっと」

「もっと?」


軽く頬を撫で、顎から顔のラインをなぞるように手が動いていく。そのまま上がった指が耳の後ろを撫でた。



やらかした。何がもっとだ、自分で言った手前今更止められない。

更に手は動き、こめかみから指を差し込み髪を後ろに流すように撫でた瞬間、その手は止まった。そっと指は抜かれ、今度は耳を隠すように髪の毛を直してる。

顔を下げない事がせめてもの意地だった。目線は既に逸らしてる。



「……ごめんね?」



謝んじゃねぇよ、ちくしょう。

その言葉にとうとう頭を倒した。目の前にある太腿にさっき同様頬を付けて。

耳に熱が上ったのが自分で分かった。赤くなってただろうよ。隠してくれてありがとな。くそ。
油断しただけだし。耳って弄ると赤くなんじゃん?それだし。触られてねぇけどな耳は。後ろ撫でられただけだけどな。知ってる。

そして、こいつは全く照れねぇ。

触っても触られても変わらない。


熱が下がった頃合いをみてリベンジすべく顔を上げる。

その瞬間、こいつの目が開いて顔が下がった。


おい今寝てた?目ェ瞑ってたよな?この体勢で?正気か、脚の間に俺居んだぞ。腰に抱き付いてんだぞ。寝れるの? どんな心臓してんの?


若干こめかみが引きつった気がした。

腰に回してた腕に力を入れてソファーから落とすように引き寄せる、すんなり落ちたこいつは俺の足を跨ぐような体勢になったが座りはせず肩に手を置いて膝立ちしている。

腰から腕を抜き座らせるように太腿を押すと直ぐに腰が落ちた。背中をべったりソファーの足元に押し付けてそのまま肩も押してゆっくり反らせるように椅子の上に倒してく。肩に軽く手を置いたまま、もう片方の腕を頭の上に付けるようにして自分の身体を支え真上から見下ろす。


……心拍変わらねぇ。これでもダメか。

密着させて心音を確認しても何も変わっちゃいねぇ。表情からも動揺すら見られない。じっと見つめる俺を見つめ返してくる。


流石にこれ以上は近付けねぇ。
離れようとした瞬間、不意に手が伸びて来た。
こいつの顔に毛先が触れるくらいは近い距離、今度は首に指先が触れ、そのまま後ろに回ってうなじに触れてきた。更に襟足を確かめるように撫で後頭部に上がった。


ヤバい油断した。本日2回目だけど今度はダメなやつ。熱が上りきる前に勢いよく立ち上がり走った。個室に入りため息が漏れる。

後ろから痛がった声が耳を過ったが振り向く余裕は無かった。
脚に座らせたまま突然立ち上がった訳だから確実に尻打ったな。
だけど俺はそれ所じゃない。気付いてないよな?気付かれてたら俺終わるかも。言い訳が出来ない。自分から密着しといて反応するのか、……だけどおかしくね? 何であの状況で触れんの?しかもうなじ触るか普通。俺触った事ないよね? いや普段ベタベタ触ってる俺がとやかく言うことじゃねぇけどよ。
だけど完全に負けたわ。


暫くしてトイレから出る。何してたかは察して。手はちゃんと洗ったから。


そっと居間を覗くと無人だった。一瞬出て行ったかと冷や汗が流れたが台所から微かな物音が聞こえホッとする。


扉を開き覗くと、こちらに背を向けてザクザク音を立てながら作業をしてる姿が見えた。


これ何の音? ザクザク聞こえるけど何の音?
こえーよ。さっきの気付いてないよね?お願い、気付いてないと言って。


「あ、銀さん。大丈夫?」

「っえ!? な、何がぁ? 」

「何がって、凄い勢いで行ったじゃん……。お腹痛いの?」

「あっ、そう、お腹、痛くっ、てさぁ!ははっ、」

「……大丈夫なら良いけど。」


明らかに不審な目を向けられた。でもいい。不審に思われるだけなら寧ろそれでいい。気付いて無いならもう何だっていい。


背を向けて再びザクザク聞こえてくる。
さっきから気になってる、このザクザクなんだ?


近付いて後ろから顔を出し覗くと、氷?ピンクの氷。


「なにそれ」

「シャーベット作ってみたの、イチゴ味」

「マジか、旨そう。」

「でも銀さんお腹調子悪いなら止めた方が良いかも。」

「え" 、いやぁ、お腹は、もう治った、かなぁ?」

「挙動不審すぎ。まぁ、分かりやすくて良いけどね。 取り敢えずは大丈夫で具合悪くないの?」

「悪くない、デス」

「本当ね?」

「ホントホント、大丈夫だって。」


じっと下から目を覗き込むように見てくる。


「んー、じゃ、はい。一口食べる?」

「食う」


混ぜてたスプーンに乗せて口元に寄せられたピンクの氷を口に含むと、イチゴ牛乳とまではいかないが広がる甘さ。


「旨いな」

「ふふっ、ありがとう。銀さん美味しいって口に出して言ってくれるよね、嬉しい。」


タッパに蓋をしながら笑うこいつの横顔を黙って見つめた


「……さっき尻打ったろ。大丈夫だったか?」

「大丈夫だよ。びっくりしたけど。」

「わりーな。」

「いいよ、銀さんの謎な行動はいつもの事だし。具合悪くないならそれでいいよ。」


謎な行動と思われていた。当然か。おそらく最初から全部が謎な行動に含まれていたんだろうな。

何しても照れねぇ。俺相手に照れる事ねぇの?


スルッと頬に指を沿わせると、こっちも見ずに口元が笑った。そのまま気にせず作業を続ける。

慣れた?慣れてもおかしくないくらいは触れてる。いや、でも最初から照れてねぇか。

何したら照れんの、こいつは。


見過ぎたのか、目線が俺に向いた。目が合うとふわっと笑ってまた作業に戻る。


…………本日3回目。あ、軽いやつの方な。


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