▼ 仕返しの仕返しの仕返し
圧迫感で目が覚めた。
苦しい、てか重い。
何事だと重い瞼を無理やり上げると、頬同士が触れるくらい抱き締められていた
しかも片足で身体を引き寄せられていて全然動けないし、胸元に手を置いて押してみるもピクリとも動く気配はない。
力強っ、身体を捻って抵抗してみるも本当に寝てるのかと思うくらい力強く抱き付かれてる。
苦しい、ほんとに苦しい……
こんなに抵抗してるのに起きないもの?
寧ろ力強まってる気さえする。
…………
「……起きてるでしょ。」
「くくっ、」
起きてた。
人が必死で抵抗してるのに寝たふりしてたんだ。
「意地悪いよね、本当。大人しく寝る事も出来ないの?」
「寝てたって。お前が起きたから目ぇ覚めたの。」
「なら離して。私もう起きるから。」
「良いじゃんまだ、寝てろよ。」
そう言ってまた抱き付いてくる。
「足重いし苦しい。離れて。」
「全然照れねぇのな。こんな密着してんのにドキドキしねぇのかよ。お前の心臓鋼なの?」
「はぁ? 」
失礼な、私だってドキドキする事くらいあるし。
パー子ちゃん見たときドキドキしたって言ったじゃん。可愛かった。
退けてと言ってるのに更に足で引き寄せられて苦しさが増した。
「くるしっ、本当苦しいからっ! 離れっ……………
…………ねぇ、」
「朝だから。仕方ねーの。」
「離れて。お願いだから離れて。」
「照れる?」
「は? 蹴られたいの?」
「こわっ!」
ガバッと布団から出てようやく離れて行った。
「こえ−事言うなよ。朝だから仕方無いんだって。」
「自分から押し付けて来やがったくせに何言ってんの?」
「いや待ってめっちゃ口悪いよこの子、誰? 」
悪くもなるわ。
「マジ変態じゃん。」
もうさっさと行こうと立ち上がったら手首を掴まれて布団に倒された。
あろうことかこの変態は両手を布団に押さえ付けて乗っかって来やがるし。
「なんなの本当、離れてくんない?」
「抵抗すれば−?今神楽寝てるから助けは来ねーぞ。」
ニヤニヤしながら見下ろす銀さんは昨日の弱々しさは全く感じられず変態そのものだった。
あんな弱気な顔されるくらいならマシかなと思ってしまうのは、普段から慣れてきてしまってるせいなのかな。
だとしてもされるがままって言うのはやっぱり悔しい。
幸い銀さんは私の両足を跨いだ状態で膝を付いているから手は押さえられてるけど、足を抜く事は出来ると思う。
銀さんの目を見たまま素早く足を抜きそのまま肩に付けて思いっきり押す。私の手を離し後ろに傾いた自分の身体を支えようとする手を更に足で弾いて、私も起き上がった。銀さんのお腹に乗って強めに肩を押し布団に押さえつける
「痛かった?ごめんね?」
驚いて固まってる銀さんに笑いながら謝る。
それでも動かないから退けてあげた
部屋から出る時起き上がる音が聞こえたから振り返ると、片手で顔の半分を覆って眉間に皺を寄せながらこっちを見てきたからべーと舌を出して台所に向かった。あれ、これ昨日と一緒。
・
・
大学芋でも作ろうかな。さつまいも安かったみたいで新八くん買ってきてくれたし、甘いから銀さんも好きだよね。
黙々と朝食を作っていて人が入ってきた事に全然気付かなかった。
「っ!うっぁ、びっくりしたぁ、なにすんの。」
いつの間に来たのか銀さんが後ろから顎を掴んで上を向かせてきた。
危ないよこれ、全然近付かれたの気付かなかったし包丁持ってたらどうすんの。
「さっきおもしれー顔してたから見に来た。」
「はっ? そんな顔してた? 」
「してた。部屋出る時。」
もう一回やってみ。と言いながら顎を掴んでる指に力が入り頬を潰された。
「うっ! いあい! うぅ! 」
痛い痛い!指!食い込んでる!頬っぺたに食い込んでる!
持ってた箸を置いて手を離させようとするも力が強すぎて全く動かない。
両手で剥がそうとしてるのにニヤニヤしながら見下ろしてくる。片手を私の前にある台の淵に付きながら、どこまでも余裕そうに。
後ろに居る銀さんの身体に頭が付くように捕まってるから手を剥がすしか方法は無いけど、これ、無理っ、力強っ……!
「うぅ!! 」
「何唸ってんの−?」
ニヤニヤニヤニヤと……くっそ、腹立つな。
手を引き剥がすのを止め、上から私の顔を覗き込んでいる銀さんの後頭部に手を置きぐっと押した
すると当然顔が近くなる訳で、
「うっお!! あっぶねぇな!何しやがんだテメー!」
「銀さんが離してくれないから。」
「だからって危ねぇだろ!ちゅーする所だったぞ!?」
そう、元々近くで覗き込まれてたから銀さんの頭を前に押せば更に近くなる。
「銀さん反射神経良いから止まってくれるって信じてた。」
「はぁ?おまっ、油断してたら分かんねぇだろうが! ったく、次ばマジでしてやっからな!!」
「え、やだ。」
「オイ、マジなトーンで言うの止めろよ。傷付くだろ。」
「あははっ、も−頬っぺた痛いじゃん。じんじんするんだけど。」
「舐めてやろうか?」
「やだ、ばっちぃ。」
「そんな言い方したって許さねぇよ。余計跡残るように吸い付いてやらァ。」
「うっわ。」
「だから!止めろってそのマジなトーン!! 傷付く!!」
会話しながらも手は動かし大学芋が完成した。
「お、大学芋じゃん。旨そう、食って良い?」
「一口だけねー。」
「あ。」
「いや、何で」
口を開けて催促してくる。自分で食べようよ、子供じゃ無いんだから。
じっと口を開けて待つもんだから渋々箸で一つ口に入れてあけだ
「ん、うまっ、甘いわ。」
「甘くしたからね、」
美味しいと言ってくれる銀さんに頬が緩む。だって嬉しいもの。
もぐもぐ動く口元が目に入ってじっと見つめる
「なに?ちゅーして欲しいの?」
「馬鹿じゃないの?」
そんな訳無いじゃん。
「銀さんって甘いもの食べるのにしゅっとしてるよね、頬もお肉付いてない。」
「んー、そうか? お前も肉付いてねぇじゃん。」
「いや、私は付いてるよ。ね、さっきの私もやって良い?」
「さっきの?」
「頬っぺた掴んだじゃん。私もやって良い?」
「……どうぞ?」
「じゃ、しゃがんで。」
言うとその場にしゃがんでくれた。
右手だけで両頬を掴んでみる。……届かない。何か顎掴んでるみたいになった。
「届かない。両手でやって良い?」
「…………どーぞ。」
両手で両頬触れて押す……押す……おっす……!
「口!力入れないでよ!」
押せない!なにこれ口論筋? 押せない!
私がされたように潰れた顔させてやろうと思ったのに全然潰れないし!口に力入れて抵抗してくる……!
「もうっ、潰れない―!っ!うぅっ!う!」
銀さんの頬と格闘しているとまたしても片手で顎を掴まれた。顎って言うか両頬全体片手で掴まれてる。手の大きさが違うし狡くない?いや私両手だけど、でも潰れないし。
銀さんは無言で私の頬を潰してきてる。そりゃそうだ、私も頑張って銀さんの頬潰そうとしてるから。口開けて喋ってくれれば潰れるのに!
「うー!っ……う!? っ!」
ちょっ、近っ!! 何で近付けんの!? 私の頬を掴んだままゆっくり引っ張ってくる。近い近い!銀さんの頬押してるけどさっきから全然動かないし、私も動けないし!
「うっ!ちょっ、っ……!」
顔がぶつかる瞬間、頬を掴んでた銀さんの手が少し上にずれて私の口を手で塞いだ。そしてそのままぶつかった。鼻先が触れるくらい近くて顔がよく見えない。銀さんは私の口を塞いでいる自分の手の甲に唇を付けて至近距離で私を見ている。
目、紅い。知ってたけど銀さんの目は紅い。しかもこんな至近距離で人の目を見る事なんてない。じっと紅い目を見つめていると頬を掴んでいた手が顔を押すようにして離れた。
「銀さん目めっちゃ綺麗だね。」
「…………………………馬鹿じゃねぇの」
「えっ」
え、あれ?何か怒ってる?自分で近付けたくせに?
片手で目を覆って隠してる。……あ、もしかして
「ごめん、私触りすぎたから怒ったの?」
確かに凄い触ったよね、意地になって頬潰そうとしてたわ。
「……くっそ、マジでしてやれば良かった。」
「え、」
睨まれた。怒ってるよねこれ。理由が良く分からないけど。さっと立ち上がり大学芋と箸を取る。
「はい、」
「……なに」
「何って大学芋。甘ーいお芋、好きでしょ? はい。」
「……」
「はーい、坂田さん。お口開けて下さ―い。」
「止めろ歯医者みたいに言うな。」
「も―、じゃ―あげない。私が食べる」
そう言って自分の口に入れようとしたら箸を持った私の手を掴んで銀さんは自分の口に持っていった。
「ふふっ、美味しい?」
「……ん」
「機嫌直った?」
「……オメーはマジで何も変わんねぇんだな。」
「え?何が?」
「まぁ良いわ、その方が見応えあるし。」
「いや本当何の話? 会話出来てないよね?」
「次は遮んねェから自分でやれよ。」
「は?えっ全然会話がっ、うぅ!! 」
まだ喋ってる途中なのに顎を掴まれた。
また!? もういいよこれ!
てか待って何でまた引っ張るの!?
ぐっと引っ張られて思わず両手で銀さんの口を塞ぐ
。塞いだ手で顔を押して離れようとしたら空いてる手で後頭部を押された。
えぇ!? なにこれさっきの仕返し!?
自分の手の甲に思いっきり唇を押し付ける形になって、両手重ねているとは言えまた銀さんの顔が近い。
どんだけ押しても少しも距離は出来ないから疲れてきて手はそのままに押してる力を緩めた。
じっと目を見つめると銀さんもじっと見てきたから勝手に目を逸らしたら負けって事にしといた。
じーと見続けると手の中で銀さんが笑ったのが分かった。もしかして気付いた?私も釣られて笑うと台所の扉が ガラっと開いた。
「うわっ! びびっくりした!何してんですかアンタら!! 」
新八くんだ! でもおはようって言えない。
「んっ、」
銀さんに目で講義すると渋々な感じで離れてくれた。
「おはよう新八くん!」
「え、そんな何事も無かったように挨拶されても……。おはようございます名前さん。」
「銀さんがしつこいからご飯間に合わなかったじゃん。ごめんね新八くん、直ぐ続きするから。」
急いで立ち上がろうとすると手首を引っ張られ背中から銀さんの足の間に尻餅をついた
「いった、何!? 早く作らなきゃ!」
「おー、応援するわ。頑張れ。」
「いや思いっきり邪魔してるから!離してよ!」
後ろからお腹の前で足をクロスされて邪魔される。
手で抜けようとするけどやっぱり力強くて、
「ちょっ、と!足邪魔!! 」
「頑張れって。」
「応援するとこ違うでしょ!? 」
料理の応援じゃなかったの!?
後ろを振り向くと 銀さんは自分の後ろの床に手を付き余裕そうに「諦めんなーお前なら出来る」と意味の分からない応援をされた。
「信じられないっ、……っ!っも、力強すぎ!! 」
「名前さん、もう良いですよ僕やるんで。」
「え!? そんな! 私がやる!私の仕事だもの! お願い銀さん、早く退けてってば!!」
「……」
「何で目瞑ってんの!? 絶対起きてるでしょ!? なに寝たふりしてんの!! 離してって!! あっ待って新八くん!」
「良いんですよ、銀さんの相手してくれてるだけで僕ら助かってますから。」
そう言いながらちゃっちゃと新八くんは残りを準備して運んで行った
「…………。こんの、何してくれてんの!! 私の仕事なのに!!!!」
「いってぇよ、爪立てんな!」
知らないそんなの!
どうやっても退けてくれない目の前の足に爪を立ててやった。直ぐに後ろから手を掴まれて阻止されるけど後頭部で頭突きするとようやく足も離された。
「ってぇ、」と言いながらおでこを擦ってる銀さんを見て気持ちが少し落ち着いてくる。
「ご飯行こっか」
「オメーまじで切り替え早いよな。」
若干涙目の銀さんに笑って手を差し伸べるとため息をつきながらも手を取ってくれた
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