パタパタと慌ただしく先生や看護師の廊下を走るスリッパの音がさっきから何回となく病室に響く。
あと一年の命と医者に宣告されてからもう三ヶ月が経った。
私は不治の病と言われる心臓が溶けていく病気だ。
最近は心臓の痛みが酷くなってきて体も思ったように動かなくなり出来る事は病室の窓から見える木々や必死に生きる蝉を見るくらい。

「暇そうだねぇ〜」

驚いた。
さっきまで人の気配がなかった前にある空っぽのベットに鼻まで隠れる大きな兎の被り物と緑のオーバーオールを着た、若そうな男が腰掛けていた。
怪しい男は被り物から出ている暗めの茶色い襟足を揺らし、唯一見えている口の橋を三日月のように持ち上げ笑みを浮かべこちらを見ていた。

「あ、彼方だれですか…?」

「んぅ〜?ふふっ……可愛い可愛い兎さんって言います〜☆」

履いていたスリッパを器用に足を使い弄びながらふざけている彼に不思議と恐怖心はなかった。

「そう…じゃあ兎さんは私に何か用ですか…?」

少し喋っただけなのに私の心臓は限界を伝えるように痛み始めた。

「おっ…!物分りがいいねお嬢さん♪いやねぇ暇そうな君にお手紙どうぞ!」

スリッパを床に綺麗に揃えて置き、ベットの上に立ち上がり私の寝ているベットへと身軽にジャンプしてきた。
私の目の前に来た兎さんは大きな体を折り曲げ、はいっと白い小さな手紙を差し出してきた。
表紙には何も書いておらず、裏向けると右下に小さく政府の象徴の花が印刷されていた。

「あ、あのこれっ!」

上を見上げるとさっきの男は音も跡形もなく消えていて、残されたのは手の中にある残酷な手紙と彼の綺麗に揃えられたスリッパだけだった。







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