ポツリ、ポツリと雨が降りだした。沢山の生徒で賑わっていた外は雨のせいで静まりかえってしまった。聞こえるのは降り続ける雨の音のみだ。
「雨は嫌いです」
長屋から外を見ながら綾部は呟く。同じように隣で外を見ていた久々知は反応し、思わず彼の方を見た。隣に座っている恋人は無表情で雨を見つめている。けれど無表情の中に、どこか苛立っているような表情に久々知は気づいた。前まではこんなわずかな表情の変化に気付くことができなかったのに今では容易にできてしまう。久々知は少し口を緩めた。
「なに笑ってるんですか」
わずかな表情に気づけるようになったのは自分だけじゃなかったようだ。
気がつくと綾部がむすっとしながらこちらを見つめていた。
ーお前の表情の少しの変化にも気付くことができて嬉しいんだよ。
心の内ではそう思いながら久々知は「なんでもない」と返す。なんでもないと言いながら嬉しそうにしている久々知を見ながら綾部はコテンと首を傾けた。
「そうですか……先輩は好きですか?雨」
雨は好きか。そう問われたのは初めてだ。雨が好きか嫌いかなんて考えたことがなかったからだ。
思ってもみない事をきかれると、誰もが戸惑い、悩んでしまうものだ。しかし、不思議と久々知はそうはならなかった。
「俺は、嫌いじゃないよ」
「!」
綾部は目を見開くが、すぐに細めた。
「…どうしてですか…?」
不安げな表情を浮かべながら綾部は問いを重ねる。久々知はそんな彼を愛しく思いながら口を開く。
「綾部はさ、晴れてるときは穴掘ってるだろ?」
「はい」
ー何を当たり前の事を…
などと内心呟きながらも綾部はきちんと答える。その即答さに久々知は苦笑した。
「じゃあ、雨の日は?」
「地面がぐちゃくちゃで掘れません…だから嫌いです」
穴を掘ることができないから雨が嫌いだという。穴堀小僧と称されている彼らしい答えだ。けれどそう発した綾部の目を見てみると、それだけではないと言っているようにもとれた。
「俺だって、雨の日はじめじめしてたり、そとに出れなかったりであまり良くは思わない」
「でもさ、」と彼は続ける。
「こんな雨の日はお前と過ごす時間が多くなる。そう思うと嫌いにはなれないよ」
ニッと久々知は笑う。
彼の言葉と表情は綾部の頬を染めていき、仕舞いには俯いてしまった。綾部のその顔をみて久々知は自分が発した言葉に自覚をもった。そして彼も同様に頬を染めたのだ。
「…あ、綾部…?」
ずっと俯いている彼に焦りを感じ、久々知は彼の名を呼ぶ。
「……い…す」
「え?」
「…先輩、ずるいですっ」
顔を上げ、赤く染まったその表情で綾部は発した。
「そんなこと言われたら、僕も嫌いになれないじゃないですかっ…」

遠回しに君の傍にいると


fin


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