「みょうじさん…ちょっといいかな」
昼休み。私が京ちゃんと喋っているとクラスメイトの男の子に呼び出された。
その彼は学年でも有名な男の子で、何故私を呼び出したのかを疑問に思うがそれを口にすることはせずに「いいよ」と頷く。
京ちゃんに断りをいれて、男の子の後についていくとそこは告白スポットで有名な校舎裏の木の下だった。
「みょうじさん、君を初めて見た時から気になってました。俺と付き合ってくれませんか」
それは告白だった。きっとここに連れてきたということは初めからそういうつもりだったのだろう。だけど
「ごめんなさい、私好きな人がいるの…」
私には好きな人がいるから。彼の告白を受け入れることはできない。
せっかく勇気を出して伝えてくれたのに。
「そっか…ごめん。ありがとう」
それでも目の前の彼は嫌な顔一つせず笑うと早足で校舎へと戻っていった。
なんだか少し、教室に戻るのが憂鬱だった。
「京ちゃん」
「…おかえり」
重い足を引きずって教室へ帰ると、京ちゃんはなんだか不機嫌だった。
いつも私といる時は笑っている京ちゃんじゃなくて少しだけ怖かった。
結局、京ちゃんの機嫌は帰りになっても治らず、今も黙ったままだ。
今日はせっかく一緒に帰れる日なのに……。
とぼとぼと京ちゃんの少し後ろを歩いていると「なまえ」と急に呼ばれた。
喋ってくれたのが嬉しくて顔をあげると、鼻がくっつきそうなほど近くに京ちゃんの顔があった。
「け、京ちゃん?!」
驚いて身体を引こうとしたが、京ちゃんに腕を掴まれたことでそれは叶わなかった。
「好きな人って誰?」
「え…?」
京ちゃんから聞こえた声はまだ不機嫌で、でもどこか悲しそうな声色だった。
どうして京ちゃんが知ってるの…?
「どうして知ってるのって顔してる」
「う、うん…どうして?」
「先に帰ってきたあいつが言ってたんだよ」
「そ、そっか…」
「で、好きな人って誰?」
少しだけ腕を掴む力が強くなった。
「京ちゃん…痛い…」
「ごめん…ごめん」
そう言って手を離した京ちゃんは私をそのまま抱きしめた。どくどくと早い京ちゃんの心臓の音が聞こえた。大丈夫かな、私の心臓の音、聞こえてないかな。
京ちゃんに抱きしめられていっぱいいっぱいだった私は質問に答えることができなかった。
それをどう受け取ったのか抱きしめる腕が強くなり、口が私の耳元に寄った。かかる息が擽ったくて、熱かった。
「俺はずっとあんたが好きだよ」
耳のすぐ近くで聞こえた言葉を理解するのに時間がかかった。それに気づかない京ちゃんは更に言葉を続けた。
「ずっと、ずっと好きだった。ずっとなまえが欲しかった。ねえ、俺のものになってよ」
熱く私に囁く声は酷く甘くて、どろどろに私を溶かしていくようだった。それと同じくらい、嬉しかった。私を抱きしめる京ちゃんの背中にそっと腕をまわす。
「私も、私も京ちゃんが好きだよ」
そう言った私に、京ちゃんは甘く囁く。
「もう、離せないから」
それはまるで、
甘く痺れるかなしばり離れてって言われても、もう離れられないよ企画サイト・
nuit様へ提出
お題・甘く痺れるかなしばり
[ 3/3 ]