ヘッドフォンの外の世界
音が鳴るたびに小さく揺れる身体。
その揺れに少し睡眠欲が襲いかかってくる。
せっかくこの位置をもらったんだ。眠るわけにはいかない。
耳に流れる音楽にも集中する。
帰り道、電車に揺られていると目の前にいつの間にか座っていたクラスメイトが自分の隣をとんとんと指差していた。
空いているから座りなよ、ということだろうか?
目を瞑って音楽を聞いていたから目の前が空いていたことも、
意中の彼がいることも知らなかった。
お礼を言って隣に座らせてもらう。
そして今にいたる。
彼は揺れに負けて眠っていた。
だらりと力が抜けて彼の手がぽたり、私と彼の間に落ちてきた。
……身体を彼とは反対方向に少しずらして、私の手も彼の手の隣に置く。
音楽が聞こえないほどに心臓が高鳴り、耳元でバクバクとならす。
手を少しずらして、ちょん、と彼の小指に自分の小指をあてる。
嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気持ちを唇をかみ締めて
にやける顔をぐっとこらえる。
ふいに動いた雰囲気がしてあわてて顔を上げると碇くんが何かを言っていた。
何で私こんなときにヘッドホンつけて音楽聞いていたんだろう。
彼は顔を背けてまた寝てしまったけれど、小指はそのままだった。
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