お題 | ナノ


  安っぽい言葉よりキスをしてよ


久しぶりに任務が落ち着いた、と加持さんからメールが届いた。
もちろん私はその時間をデートにあてて欲しいとお願いをした。


「見ないあいだに可愛くなっちゃって。」

「加持さんがほったらかしにするのでどんどん私も変わっちゃいますよ?」

「もっと可愛くなるのなら俺は大賛成だけれどな。」


デート、といっても外へと出かけるのではなく私の家でただまったりとする、所謂お家デートなのだけれど。
でも私は久々に会えるということでしっかりとおしゃれはしているつもりだ。
現に彼は褒めてくれたし、多分本心から言ってくれている。

…………とは思ってるんだけれどねえ。

彼の悪い癖とでも言えるであろう、この口の軽さ。
よく言えばフェミニスト、悪く言えばどの女性に対してもこうなのだ。
たとえ本音でもその言葉は軽く感じてしまう。


「彼女ほったらかしにしてるといつか目の前からいなくなっちゃうかもしれないですからね!」

「それだけは悲しいから勘弁してくれよ?」


私がソファへと座ると彼も私の隣へと座る。
ここの座る位置は以前と一緒、いつも二人で座るときは加持さんは私の隣に座る。
もちろん、その位置には既にお茶が用意されている。


「加持さん次第です!」

「好きなのは名前ちゃんだけだよ?」

「その言葉他の誰に言ったんでしょう?」

「君だけだって。」


そう言っても、加持さんは私にキスすらしてくれないんだ。
加持さんを知る人に聞いてもびっくりされる。
……それは多分、私が子供扱いをされているから。
だから、……と決心して加持さんの服の裾を掴む。


「名前ちゃん?」

「お願い、キス、して欲しい。」


加持さんの顔は驚いた顔をしていた。
こんな事言うなんてはしたない子だって思った?面倒だと思った?
私ももう子供じゃないの。キスだってしたいし、好きな人と愛し合いたいの。

でも、きっと加持さんは私にキスをしてくれないんだろうなってぼんやりと心の片隅で思っていた。
だって、もしシテくれるならもっと早くにシテくれていただろうし、私は本命じゃないと思っていたから。

そんな私の考えとは裏腹に加持さんの唇は私の唇に重なった。


「んっ……。」

「……。」


望んだこととはいえ、好きな人からのキスはドキドキと胸が弾むもので。
彼の吐息が当たるたびに、唇に熱が伝わっていると意識するたびに
目の前がクラクラとする感覚に陥る。

ああ、もうダメ、倒れると思い身体を反らせようとしたら
腰に手を回されグイと寄せられる。
加持さんとの距離は更に近くなり身体全体で彼の体温を感じた。


「ぷはっ!」

「くく、自分でキスを求めたのに随分と顔を赤くしてくれるんだな。」

「だ、だ、だってこんな長いと思わなくて……!」


顔を離され、ようやく息が吸えると判断し口を大きく開けて酸素を肺に入れる。
私は余裕がないというのにこの人は……っ!

楽しそうにくつくつと喉を鳴らしながら笑っている。


「俺がどうしてキスをしなかったかわかるか?」

「……そ、それは私が子供っぽいから……。」

「違う。それはもう付き合う当初から年齢とか精神的な年齢も関係はないさ。」

「えっと、他に思い当たらないんですが?」


キスをしない理由?なんだろうと空中を見渡してみる。
もちろん空中には何もないんだけれど加持さんを見ているよりかは考えがまとまりそうだったから。


「名前ちゃんとキスをして我慢ができなくなるからだよ。」


彼のその言葉が耳に入り、上を左右に行き来させていた視線をそろそろと下ろして加持さんを見る。
えっと、それって、あの……。


「ふっ、顔真っ赤だぞ?」

「な、な……〜〜っ!」

「ほらキスしたんだからその先の甘い展開、期待していいんだろう?」


そういって加持さんは人差し指をクイクイと動かす。
こっちに来いという合図だろう。立ち上がり彼を見下ろすと膝の上を指さされる。
彼のふとももに跨り加持さんの顔を見る。

目があった瞬間に後頭部に手がまわり、ぐっと加持さんの方に引き寄せられる。
……ドキドキしながらも明日は身体は大丈夫だろうかなんて、キスして欲しいなんて言ったことにちょっとだけ後悔をした。


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