10000キリ番アンケート……渚カヲル育成計画/甘
ポカポカとした陽気にやられたのか、私はどうやら眠っていたみたい。
気持ちのいい風に、気持ちのいい日の当たり方にもうしばらく寝ていたい、そんな気持ちにさせられた。
外……?
常時夏である世界がこんな気持ちのいい、ポカポカとした、
まるで春のような暖かさではないはずだ。
不思議に思って起き上がってみるとそこは草原、だった。
「……お母さんのところに行かなきゃ。」
なにも違和感がない。そうだ、これは夢なんだ。
現に私はお母さんの場所を知っている。
たまに眠ってみる夢を夢と判断できることがある、なんて聞いた事があったけれど、
本当にあるんだ。と少し驚いた。
近くに置いてあったバスケットを持ち上げ、近くに咲いていた花を摘む。
白い花、黄色い花、また白い花。落ち着いた花がいいかもしれない。
「なにしてンの?」
「?」
顔をあげると狼がいた。狼というか狼のコスプレをしたカヲルくん。
すっごい可愛い。少し揺れているしっぽもキュートさを演出している。
……顔をうずめてモフモフしたい。
「カヲルくん……、こそ何してるの?」
「カヲル?僕カヲルじゃないよ。でも好きに呼んでいいからカヲルでもいいよ。」
「私、お花摘んでるの。お母さんの所にいくから。」
「そ。僕は散歩。もうすぐ花は摘み終わるの?」
「うん。……もう、いかなきゃいけないから。」
カヲルくんは不思議そうに首をかしげる。
彼はわからないことがあると、この仕草をして少し考えた後に私に訪ね事をするんだ。
きっと、今も聞くんだろう。私はその言葉を待つ。
「なんでお母さんに会うのに花を摘むの?」
「なんでだろうね。おかあさんに頼まれたからかな?」
「……赤ずきんの言う事よくわからないや。」
「赤ずきん?」
「君の事。」
「私、名前っていうんだ。」
名前を教えてあげると、彼は小さく私の名前を復唱した。
そのとき、しっぽの揺れが大きくなっていたのを私は見逃さなかった。
……名前知れて嬉しいってことなのかな?ふふ、ちょっと可愛い。
いつも私もカヲルくんが何を考えているかわからないから、
カヲルくんにもこうやってしっぽがついているならば少しわかるかもしれないな、なんて思っていた。
「名前、がお母さんのところにいくまで送っていくよ。」
「うん、お願いしてもいいかな……?」
一人より二人の方が道中は楽しいに決まっている。
カヲルくんは左手を出している。
なんだろう?中にはパンと葡萄酒しか入っていないけれど……
お腹がすいたのかな?とパンを差し出した。
「なにこれ?」
「あれ?違った?未成年だからお酒はダメだよ?」
「葡萄酒?……凄い組み合わせだね。違うよ、僕が手を出したのは君の手を引くためだよ。」
「手を繋いで歩くって事?」
「そう。道中には狼がいるかもしれないしね。」
「ふふ、狼はカヲルくんじゃないの?」
「僕は狼じゃないよ。使徒だ。それより手。上げてるのに疲れてきた。」
「あ、ごめんね……。」
彼の手を取った瞬間、ザッと周りの風景が変わる。
カヲルくんも狼の姿なんかじゃなくて、いつものカヲルくんが真剣な顔で私を見つめている。
「僕は君の傍にいたい。」
そう、言われた瞬間、私は目を覚ました。
……やっぱり夢か……。カヲルくんの狼姿とても可愛かったんだけれど。
ぼんやりと考えた後、カレンダーを見るために少しだけまだ重い体を起こす。
机の上に置いてあったお金が入った封筒をバッグの中にいれて、着替えをする。
白いものを基調にして、赤い上着を着る。少しハデかもしれない……、けれどまあいっか。
髪の毛も整えてバッグをとり、私は花屋へと向かった。
「誰に贈る花なの?」
「……なんとなく会える気がした……、おはよ、カヲルくん。これ、お母さんのところに持っていこうと思って。今日命日だからね。」
「ああ、なるほどね。」
夢の通りなら、もうすぐなのかな?なんて思っていたら本当にカヲルくんから声をかけられた。もちろん、狼の耳やしっぽは生えていなかった。
少しびっくりしていたけれど、今日はなんだか会える気がしていたから。
今日の夢の事をカヲルくんに最後の事を抜かして一通り話終えると少し面白そうに笑っていた。
「夢というのは記憶を元にして起こる現象なんだ。名前は添えるお花と家族の元へ行くというのを夜考えながら寝たよね?」
「う、うん。」
「それを無意識に赤ずきんと照らし合わせてそんな夢になったんだ。でもその日中にそんな夢を見たなんて、よほどずっと考えて寝たか、名前は単純なんだろうね。」
「じゅ、純粋といってほしいな……。」
カヲルくんは喉をくつくつと鳴らしながら笑っている。
今日のカヲルくんは意地悪モードなのかもしれない。今彼にしっぽがあったら揺れているのだろうか。
楽しそうだからいいけれど……。
包み終わったのか花屋の店員さんは金額を読み上げた。
慌てて私はおかあさんからもらった封筒の中からお金を取り出して支払いを済ませて落ち着いた色で集めた花束を受け取る。
「じゃあ、せっかくだから、正夢にする?」
「え?でももうカヲルくんに会ったまでが夢だったし……」
「手、繋いでお母さんのところに行くんでしょ?」
すっと差し出されたのは夢と同じ左手で。
夢の中では全然そんな事はなかったのに徐々に熱が頬に集まるのがわかる。
ドキドキと耳元で心臓がなりだし、セミの声が聞こえなくなる。
カヲルくんの手に私のあげた右の手の指がちょんと当たる。
ふ、触れてしまった。もう後戻りはできない……!
覚悟を決めてカヲルくんの手の平に私の手の平を重ねる。
彼の手はゆっくりと私の手を包み下へと下ろす。
「なんか違う。」
「え?」
カヲルくんは一旦私の手を離す。
確かに今なんだか動きづらかったけれど……。
私の腕が前になっていたのでカヲルくんが回り込み、カヲルくんの腕が前にくるように握り直してきた。
つまり、カヲルくんが私の半歩前を歩く様に繋ぎ直してくれた。
ああ、確かにこっちのほうが動きやすそう。
それに何だか落ち着く気がする。
彼の小さなその動きが可愛く感じてしまい、彼も手をつなぎ慣れていないんだなと思うと少し緊張がほぐれて小さく笑ってしまった。
ねえ、狼さん。
私の想い、この手から伝わればいいなって思ってますよ。
狼さんの気持ちも、しっぽがなくても伝わればいいなって思ってます。
「そういえば、僕が狼って……いや、やっぱりなんでもない。」
「え?……気になる。」
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10000キリ番アンケートをとっている間に20000を過ぎていた、という笑い話。
赤ずきんが持っているパンと葡萄酒。あれって何を意味しているんでしょうね。
キリストでいうところの肉(パン)と血(葡萄酒)でしたよね、確か。
ということで調べてみたのですが、詳しい諸説がなく(苦笑)
赤ずきん、で面白い話はありましたよ。
赤ずきんは経血のイメージで、ワインは(割れて血がでるというイメージから)処女、道草がダメと言ったのは処女喪失への警告で狼に食べられるのは性行為という諸説があるそうです。
じゃあ、渚は最後に何を言おうとしたんでしょうね。
彼の顔を見ると多分照れていたと思いますよ。
さて、じゃあ彼にしっぽがあったらどうなっていたんでしょうね。