アンケート夢……渚カヲル育成計画/甘
朝に久々に大声をだした。
泣き叫ぶようなそんな喉が裂けそうな大きな声。
部屋を飛び出し、今日は学校であることも思い出せないくらいに頭の中がぐちゃぐちゃになり、そして今に至る。
「学校、さぼっちゃった……。」
未だに落ちそうになる涙を強くこすりながらぬぐう。
おかあさんは悪くないんだ。悪いのは私。
しかしカッとなっていらない言葉を吐いてしまい
戻って謝ることすら出来なくなっていた。
そこで河川敷にきて、ただひたすら流れる川を見つめていた。
「……家に帰れない……」
学校にもいけない。家にも帰れない。
これからどうしよう、と考えて、友達の顔が浮かぶ。
友達の家に泊めてもらおうかな。制服もないから借りないといけないかもしれない。
でも制服なんて2着も3着も持っているだろうか……。
「なにしてンの、ここで」
聞いたことある声が聞こえて驚いて振り返る。
不思議そうに首をかしげるクラスメイト。
「か、カヲルくんこそ……今日学校じゃないの……?」
「つまらなさそうだったし、給食も昼休みも終わったし帰ってきたんだよ。そっちは?今日体調不良で休みって聞いたけれど?」
「体調っていうか……、機嫌、が良くはないかも」
近づく彼の足音。顔を見られたくないので下を向いて逸らしていると
両手で頬をつかまれ、無理やり上を向かされる。
彼が私を見つめる。両の瞳で、私の目を捉える。
「泣いたの?」
「おかあさんと、喧嘩して、酷いこといっちゃったの……。」
「どんなこと?」
彼はそのままの状態で私に問いかける。
そんなこと聞かれたら私は、……泣きそうになってしまう。
「……どうせおかあさんは本当のお母さんじゃないから、私の気持ちがわからないんだって。」
――おかあさんは私の気持ちを知ろうとなんかしてくれない!
――いつも私から距離を置いて離れたところから家族ごっこしてるだけなんだ!
――どうせおかあさんは……!
「酷いこと言ったの、私。おかあさんが一番どの言葉言われたら傷つくかを知っててその言葉をおかあさんにぶつけてしまったの……。」
おかあさんが頑張って私に近づこうとしてるのはわかってるのに。
わかろうとしているのに、私が突き放したんだ。
私の目から留まりきれなかった涙が頬を伝って彼の手を濡らす。
濡れてしまうのに、彼はその手を離さなかった。
「ヒトとヒト、所詮は他人同士だ。それは親であろうと他人だよ。他人の気持ちを知ろうというのは難しいことだ。」
彼の落ち着いた声がストン、ストンと胸に心地よく落ちていく。
濡れた目に指が伸びて涙を拭き取られた。
「だから他人を知ろうとする。君のおかあさんが傷ついたのは君が知りたいから。名前が傷ついたのはおかあさんに君の気持ちを知ってもらいたいから。どちらも間違っていないよ。どっちも同じこと思っているんだよ。
君の気持ちを抑えず、おかあさんにいっていいんじゃないかな。君の事も知れるし、それが『家族』というものだと思うよ。
ちょっとしたことで良い。今日何があったとか、友達と何を話したとか、そんなことで相手の一部をしれるんだよ。」
だから、たった一言、ごめんなさいと言えば名前もおかあさんの事知れるきっかけができるんだよ、そう言って頭をくしゃり、優しくなでられた。
「あり、がとう。カヲルくん。カヲルくんが言ってくれると、なんだか、ちゃんと心に入ってくる気がする……。って、ご、ごめんね!こんなみっともない姿みせちゃってっ!」
「ううん、また君の新しい一面が知れたから僕は嬉しく感じるよ。」
そう、彼は照れくさいのか少し頬を赤らめて言ってくれた。
私は彼の手をとり、握り締めた。
「カヲルくん、……えっと、手を繋ぎたいです。」
「そういうワガママ、いいと思うよ。頼ってくれてありがとう。」
カヲルくんは私が握っていた手を解いて握りなおしてくれた。
大きく腫れているだろう、そんなまぶたのせいで下しか見えない。
そんな私の手を引いて、ゆっくりと歩みを進めてくれた。
「もう一つ、ワガママ言ってもいい…ですか?」
「なんなりと。」
「一緒に居て欲しい……なって。」
「もちろん、君が望めば僕は君のそばに、君が望むだけ隣に居続けるよ。」
力強く握り返された手に安心をして、またひとつ涙がこぼれる。
夏の暑さに対照的な彼の少しひんやりした手に愛おしさのようなものを感じていた。
帰ると、心配してくれていたおかあさんにちゃんと謝れました。
それをメールでカヲルくんに報告したら、電話がかかってきて、
彼は私が眠りにつくまで優しく語り掛けてくれた。
すこし、またカヲルくんが好きになれた気がする。
そんな一日でした。