キリ番32000(柚子様)……性格の悪い彼は年下の彼:風邪引き、その後
はい、えっと、私苗字 名前は風邪をひきました。
とグラグラと揺れる頭を押さえながらの状況分析をしてみる。
原因はわかっている、今私の部署に電話をしているこの男のせいだ。
いや、別に悪いことはしてないんだ。ただ私の体調管理が悪かっただけなんだけれど。
それを自分のせいだとずっといってかなり心配してくれた。
「名前さん、有給休暇使うかどうか聞かれてますが……、使います?」
「!」
そんなものがうちの部署にあったのか!ていうかいいこと言うな!うちの上司!
と思いコクコクと頷く。……う、そのせいでめまいが……。
「業務三倍で手をうつそうですよ……、って大丈夫ですか?!」
そして目が開けていられなくなり、カヲルくんの声だけが聞こえた。
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名前さんが風邪をひいた。僕が風邪をひいて一週間後くらいに発病した。
……移してしまった。けれど本人はあまり気にしてはいないみたいだった。
なるべく咳もしないようにしていたけれど……。
「……大丈夫ですか?」
電話を切って、彼女に問いかけると弱々しく首を横にふる。
今、名前さんは声が出ない。
というか声は出せはするけれど、全てに濁点がついたような言葉になってしまい、
僕が朝「体調悪いんですか?」と聞いた際に「わ゛る゛い゛」と返され、思わず吹き出してから彼女はそれ以来頑なに声をだそうとしていない。
……いや、悪意があったわけではないんですよ。
ただ初めて聞いた声に思わず……。
僕は先週の記憶を辿る。確かに彼女に風邪をひいたら同じことをする、とは言ったけれどまさかこんなに早くチャンスが……いや、機会が来るとは思ってもいなかった。
「まずは着替えでしたっけ?汗拭きでしたっけ?」
ブンブンと首を振る名前さん。そんなに振ったら気分が悪くなるんじゃないだろうかと思った矢先に口元を押さえる。
しまった……流石に今日は控えておこう。
「冗談ですよ、……トイレいきます?」
彼女の返事はNo。どうやら吐き気は収まったようだ。ゆっくり深呼吸をするとポスンとソファに身体を預けた。
ここでは身体が休まないだろうと思い、名前さんの足と背中に手を回す。
所謂、お姫様だっこをしてみた。これくらいのささやかな悪戯くらいはいいですよね?なんて彼女を見た。
彼女は僕を見つめていた。
ばっちり視線があい、そして僕は彼女を見たことを後悔する。
少しばかり垂れた眉、瞳は潤み、半分開いた唇から覗く真っ赤に艶かしく誘う舌。
荒げた息は僕の理性の柱をグラグラと揺らす。
「ああ、そういえばそんな事言ってましたね。」
これ以上は目に毒だと目線を外し、彼女をベッドへと運ぶ。
彼女が言っていたじゃないか。そんな気持ちがわかると。
なるほどこの事だったのか、と納得してしまった。彼女は何を言っているのかわからないのか首を傾げていた。
「早く治してくださいね。毒状態はさすがに僕も逃げ出したくなるので。」
まあ、もちろん毒状態というのはお互いに、だ。早くいつもの彼女に戻ってもらわないと精神がもちそうもない。
彼女は言葉が使えないため、僕の胸をドンと拳で叩く。……結構痛かった。
「けほっ、暴力反対。口で言ったらどうだい?はい、つきましたよ。」
ベッドに下ろすと、布団をすぐに被りその中で大きな咳を繰り返す。
そんなに気にしなくていいのに。
そういえば風邪とは体内でウイルスを進化させて出てくるんだったかな?
彼女はもしかしたら僕よりキツイのかもしれない。
「この前の頭を冷やすやつが残ってますので取ってきますね。ご飯はどうします?食べれます?」
咳が落ち着いたのかひょっこりと布団から頭をだす。
何だったか、この生き物。ああ、ミーアキャットみたいだ。思わず漏れそうになった笑いを必死にこらえる。
「ごはんいらない。」
「ふふ……。」
あ。
……彼女の声に笑いがこらえきれず、笑ってしまった。
「カヲルくん、きらい」と一言だけ言葉を言って布団にもぐってしまった。
急いで冷えぴたと書いてある商品の箱の中身を取り彼女の元に戻ってくる。
「せめてこれだけでも貼らせてください。」
ご飯は後ででも食べれるし、薬は別に飲まなくても大丈夫とさっき調べたときに書いてあった。
だけれど、やはり彼女が心配で。なにかしてあげたくて。
今出来るのはこれくらいだろう。
少し膨れっ面をした彼女が顔を出した。……本当になにかの小動物みたいだ。
「はい、貼りましたよ。軽く消化のいいものを作っておきますね。何かあったら隣にいるのでメールで呼び出してください。」
そして僕はその場を離れようとしたら、くいっと何かに引っかかる。
視線をそちらに向けてみると彼女の手に弱々しく握られた僕のシャツが見えた。
その仕草に少しばかり愛おしさを感じた。
「寂しいんですか……?」
「……。」
「沈黙は肯定と受け取りますね。」
いつもは大人ぶって僕に弱い部分を見せまいと頑張っているから、こんな風に甘えられるとかなり嬉しいと思う。もっと、僕しか見えないくらいに甘えてくれたらいいのに。
ベッドの端に座り、名前さんの額に汗で張り付いた前髪をかき分けると彼女は気持ちよさそうに目を閉じた。
しばらくすると彼女は眠りにつき、僕は台所に向かった。
確かうどんが消化によかったはずだ。卵とネギをいれて自分の分も作っていたらドアが開く音がした。
「もう起きたんですか?」
彼女はこくりと頷いてフラフラとした足取りでお風呂場へと向かった。
ああ、もしかして……そう思いながら火を消し、彼女のあとを追うとやはり彼女の手にはタオルが握られていた。
「拭きましょうか?」
「や゛た゛」
「背中拭きづらくないですか?」
黙り込んでしまう名前さん。僕も何故ムキになってしまっているんだろう。
別に彼女の汗を拭きたいという特殊な性癖をもったつもりはない。
多分、顔を赤くする彼女の顔を見たいんだ。
「……。」
すっと目の前に差し出されるタオル。
……あれ、もしかしてこれは僕に拭けということかな?
首を傾げながらタオルを受け取ると「背中だけ……」と今にも泣きそうに顔を真っ赤にした彼女が僕に背中を向けた。
その表情に思わず、ゾクゾクとした感覚が走る。
……ああ、もっともっと彼女を僕でいっぱいにしたい。
そう思いながら、僕は笑顔をうかべ、名前さんの背中を押しながらベッドのある部屋へと向かった。
後日、僕はしばらく寝室へと入れてもらえなかった。
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キリ番、32000 柚子様リクエスト
キリ番25000の風邪引き、その後でした。
ご報告、リクエストありがとうございました!
まさか続きを書かせていただけるとは思ってもみませんでした(笑)
最初は15禁あたりでいくか、とか思っていましたが…。
意地悪もされて、かつ動揺する彼が見たいと言われていたので
ちょっと意地悪さが強いですけれど、どうだったでしょうか?
オチが実は違う展開だったのですが、忘れてしまいました←